ベースは赤ちゃん当時の動き?
その中でメニューも微妙に進化をしていく。5年前は有効だったメニューでも、現在の子たちの骨格や体の使い方の理解力なども踏まえて改良され、進化を続けている。そのためトレーニングの種類は増える一方なのだ。
「特にこの5、6年は小さい頃の体の使い方を呼び起すことをベースにしています。今では小学校の体育の授業で器械体操や跳び箱、組体操などがなくなっているでしょう。だから、今ちょうど高校に入学している子くらいから、自分の体の使い方が特に分かっていないんです。例えば、今の子は逆上がりとか棒登りとか、やってみろと言っても出来ない子が多い。そのため、ここでまずそういう動きから見直していくんです」。
動きのベースは、寝返りやハイハイといった赤ちゃん当時の動きだという。実はこの動きこそが体の筋肉全体を動かし、様々な動きを呼び起こしているのだ。鍛える要素と柔らかくする要素をマッチングさせた動きを取り入れることで、動きが一気に向上し、パフォーマンスアップに繋がった選手も多い。
「投手で言うとウチを卒業した高橋奎二(現東京ヤクルト)が良い例ですね。下半身の柔軟性が加わったお陰で、安定した球を投げられるようになりました」。高橋奎二投手と言えば大きく右足を上げるダイナミックなフォームが特徴のサウスポーだが、あのフォームも股関節が柔らかくないと体現できない。自身もストレッチにかなり気を配っていた記憶がある。
野手の場合だと、50センチ横のゴロは捕れても70センチ横のゴロは捕れなかった選手が、下半身の柔軟性が加わることによってそのゴロが捕れるようになる。可動域がなかったり、筋肉の堅い子が絶対に上達しないのは、これまで原田監督が見てきて明らかだという。体が硬いことを知らずに無理をしてオーバーワークになってしまうと、ケガにも繋がる。そのためケガをしたり、ここが痛いという選手は龍谷大平安にはほとんどいない。
冬場になると週に一度、水泳も練習の中に取り入れる。水泳は体のほとんどの部位を使うため、多方面に効果が出るとされているが、実際に心肺機能が上がり、肩甲骨や肩回りの柔軟性もアップする。その中でもっとも効果のある種目は、背泳ぎなのだという。
「背泳ぎは肩を回すので、肩甲骨が動いて柔らかくなるんです。これをひと冬重ねて可動域が広がって、パフォーマンスが上がった投手が川口知哉(元オリックス)でした。私が驚くほどボールが走るようになって、スピードも上がったんです。全員の能力が高い訳ではないので、体を使っていくうちに個人個人に“ここはこうしたらいいよ”とか、“君はここが硬いからこういう動きができないんだ”とまではこちらから言いますが、そこからどう取り組むかは本人次第。本人のやる気次第で野球への影響も大きく変わってきます」。
体の鍛え方次第でこうも変わる龍谷大平安のアップ。そこに本人の前向きな姿勢が加われば、ビックリするほどパフォーマンスが向上する。この緻密な取り組みこそが、古豪・龍谷大平安の強さの根源なのだ。(取材・写真:沢井史)
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