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【上尾】伝統として受け継がれる「人間性を高める野球」

2018.6.13

昨夏、県勢初となる「深紅の優勝旗」を手にした花咲徳栄をはじめ、強豪私学がひしめき合う埼玉県。そんな中で虎視眈々と34年ぶりの甲子園を目指すのが、公立校ながら春夏合わせ7度の甲子園に出場経験を持つ古豪・上尾だ。これまで多くの名選手、名監督を輩出した伝統校に受け継がれる「人間性を高める野球」を取材した。


名将野本喜一郎監督のもと、1970年〜80年中頃まで埼玉の高校野球をリードする存在だった上尾。仁村徹氏(現・楽天スカウト部副部長)のようにプロの世界で活躍する選手だけではなく、福田治男監督(桐生第一)、森士監督(浦和学院)、清水達也監督(中央大学)などアマチュア野球のトップ指導者も多く輩出している。だが、近年は浦和学院、花咲徳栄などの私学勢が覇権争いを演じ、上尾は長く甲子園の舞台から遠ざかっている。



「(強豪私学が覇権を争う現状は)やはり僕の現役の頃とは大きく違います。あの頃に比べ、能力の高い選手がたくさん集まってくるわけではありません。また、グラウンドが住宅街に囲まれているということもあり、夜も練習は19時半まで。朝の練習も1時間くらいです。それに10年前はまだ『私学に負けてたまるか!』という意地を持った選手が多かったんですが、そういった強い気持ちのある選手が年々減ってきているような気がします」。

そう話してくれたのは、2010年秋から指揮を執る髙野和樹監督。自身も上尾で84年夏の甲子園に出場している。前任の鷲宮時代には06年夏に埼玉県準優勝を収め、西谷尚徳氏(元・楽天)や、増渕竜義氏(元・ヤクルト)などプロ野球選手も育て上げるなど、確かな手腕を持つ指導者だ。ちなみに髙野監督を支える神谷進部長、片野飛鳥副部長も上尾のOBだ。髙野監督を慕ってくる選手、上尾の野球に惹かれる選手も多く、公立校ながら3学年合わせて現在の部員数は90人以上にもなる。
2010年秋から母校で指揮を執る髙野和樹監督
髙野監督を支える神谷進部長も上尾OBだ

「他校に比べて絶対的な力がないからこそ、選手全員で力を合わせなければいけません。そういった意味でも、日ごろの練習から足を揃えたり、声を出したり、いわゆる規律を重んじ“人間性を高める”といった点を重視しているのが私の指導スタイルです。高校野球は何が起きるかわからない世界。うちだって一回戦で負けても全然不思議ではありません。だからこそ、日ごろから目の前の物事をやり切る気持ちや、一球にかける執念というのが大切だと考えています」。

練習の始めに行うアップでは90人以上の選手たちの足並みと声出しが綺麗に揃う。ノックでは一球一球を大事にし、ユニフォームが真っ黒になるまで選手たちは必死にボールにくらいつく。高校野球らしさが存分に感じられる熱気のあるグラウンドだ。練習中は髙野監督を筆頭に指導者の厳しい声も飛び交う。時には声が小さかったり、下を向いてしまうような選手に対して一対一で髙野監督が長時間話し込む。

「グラウンドに立つ選手で役に立たない選手なんて誰一人いません。ゲームノックのランナーだって、審判だって、みんなチームの役に立っているわけです。レギュラーかどうかなんて関係なく、その後の人生で成功するOBが沢山いるのが上尾の強みでもありますから。そういったプレー以外の部分に関して、選手たちに話をすることは多いですね」。


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