大阪桐蔭の練習風景を見ていて、感心するのは個人個人の意識の高さだ。例えば、それは、練習中のアップやダウンなどからも垣間みれる。
「平成最強校」を率いる西谷監督のオフ練習、オフトレ論(前編)
というのも、大阪桐蔭では全体アップのあと、「個人アップ」の時間を設けている。その日の体調に合わせ、個人で考えて取り組ませるのである。人と談笑しながらする選手もいるが、そうした選手は二流で、試合に出るような選手は自身の身体と会話をしながら、黙々と調整していくという。
ただ、西谷監督に言わせれば、そうした個人アップの選手間意識は「あくまで入口に過ぎない」という。
冬場の練習では「個別性」が特に、強調されるからで、選手たちはそれぞれの目標に合わせて練習に取り組んでいくのだ。
例えば、フリーバッティングは全体練習の一つだが、それぞれの目的が全く違うのだと西谷監督はこう語る。
「個の結集がチームじゃないですか。小さな粒が集まったら、こじんまりしたチームにしかならないので、いかに自分一人を大きくできるかということです。野球は団体スポーツですけど、個別性が高いのが特徴です。なぜなら、絶対に打席があるからです。個別性が高い競技であるので、チームワークと個性の両方の要素を精神的にも持たないといけない。冬場の練習の時に、群れを組んでいるようではいけないということです」
甲子園に出るためには、あるいは、優勝するためには、勝つことを目指した野球にならざるを得ない。特に、高校野球の大会はすべてがトーナメント戦であるため、送りバントや進塁打など細かなプレーが求められる。しかし、それを年間通してやっていくと、個性を伸ばすことへの足かせとなってしまう。
西谷監督はその点を念頭に入れ、冬場は選手個々に技術力向上の意識を持たせているのである。
「オフの時期は“チームワークは必要ない”といっています。もっといえば、選手同士が“仲悪くなれ”と。人が練習をさぼっていても、注意する必要はなく、己のことだけを考えればいい。自分の目標達成のために、自分に何が足らないかを見つめて取り組むということです。ですから、今の時期はあまりミーティングをしないです。むしろ、個人面談が主になります。何が課題かをそれぞれと話をして、コーチたちと一緒に取り組む時期というとらえ方ですね」
今回の取材(Timely!No.47掲載)では5人のドラフト候補に話を聞かせてもらったが、それぞれのこの冬のテーマは5人5色だった。
1番バッターの藤原恭大は、フォーム改造に着手して、より率の良いバッターを目指している。エースの柿木蓮はストレートの質の向上、変化球の精度アップだ。長身左腕の横川凱は、走者がいない時でもセットポジションだったフォームをワインドアップにして、「ボールに圧を戻したい」と取り組んでいる。投手、内外野も兼務する根尾昂は「打つ、投げる、走るの精度を確率高くやる」と語り、主軸を打つ山田健太は、1球1球にテーマを設定して、打ち損じの少ない打者を目指している。
こうしたビジョンは全選手にあり、個々は高い意識のもとに取り組んでいる。
そして、大会が近づいてくると、“個別性”から一気に切り替わる時期を迎える。“組織”としての戦いへとシフトするのである。
西谷監督はその時期が来ると、こう訓示を伝える。
「きょうからはチームとしてやる。だから、自分がメンバー外れたからやる気がないとか、自分が控えに回って納得がいかないと思う人がいたら、これからグラウンドに入らんといてくれ。一人ひとりを見捨てるということではなく、皆の目標が日本一というなか、これまで個人でやってきたけれども、一人の力で日本一になれない。どうチームとして絡みあっていくかが大事だから、自分は先発したいと思っているのに控えになるかもしれないのが嫌なら、グランドに来んといてくれ」
大阪桐蔭にとっての冬場は高い技術力をつけていくための仕込みの時期として捉えられ、技術力と精神力をしっかり鍛え上げていく。その先に、組織の一人として力を発揮していく。
平成最強校は、そうして、力を蓄えている。(取材:氏原英明、撮影:浅尾心祐)
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