学校・チーム

【埼玉栄】名伯楽・若生監督の投手育成論とオフの練習、トレーニング法

2018.3.12

1998年夏の甲子園に初出場を果たし、大島裕行(元埼玉西武)の逆転ホームランで優勝候補の沖縄水産を破り全国的にも強いインパクトを残した埼玉栄。近年も木村文紀(埼玉西武)、白崎浩之(DeNA)などプロ野球選手を輩出しているが、甲子園出場は2000年春のセンバツ以降遠ざかっている。そんな埼玉栄に2015年、若生正廣監督が22年ぶりに復帰することとなった。若生監督と言えば東北高校、九州国際大付で二度の甲子園準優勝を果たし、ダルビッシュ有(カブス)など多くのプロ選手を指導したことでも知られる名将だ。若生監督就任三年目で、20年ぶりとなる夏の甲子園出場を目指す埼玉栄の練習を取材した。


長い練習ができるための身体を冬の間に作る

取材当日は3月上旬。練習試合の解禁も間近に迫っているということもあったが、この時期から徐々に実戦的な練習を増やしていくそうだ。シーズンオフ期間とシーズン開幕前の違いについて若生監督に聞いた。

「冬の間はとにかく身体を大きくすることと体力、筋力をつけることが優先。ボールは年中使いますが、12月から2月まではトレーニング8割、野球2割。3月に入ったら練習試合も始まるのでこれを逆にしてトレーニング2割、野球8割にします。うちの学校はトレーニングしっかりやりますし、寮生は食事も多く出しますから、身体は年々大きくなりますし体力はつきますよ。野球はやらないといけないことが多いから練習時間もどうしても長くなる。その長い練習ができるための身体を冬の間に作ります」

若生監督の言葉通り、この日はウォーミングアップの前に全員でトレーニング、ダッシュなども行っていたが、キャッチボールが終わるとすぐに走者もつけたシートノックが行われた。また、投手陣もシートノックに参加し、投内連携にも時間を割いていた。
「冬の間にしっかり鍛えてきたから選手の動き自体はいいと思いますよ。ただ野球の動きになるとできないことも多い。32年間も見てると分かるんですよ。今年のチームはこれができてないなって。試合が始まる時期からそれを見極めながらやっています」

バックネット裏で取材に応じながらもその視線は常にグラウンドを向いており、気になるプレーがあるとその都度大きな声で指示を送っていた。そしてその指示は選手だけでなくコーチに向けられることも多かった。
「東北や九国(九州国際大付)の時に比べるとうちはコーチがまだ若い。20代のコーチもいます。選手もそうですが、コーチもまだまだ野球について知らないことが多いんですよ。知らない人間同士であれこれ相談するよりも、知っている人に聞いた方が早い。だから選手にも分からなければ聞けって言いますし、コーチがレベルアップするために外部の人にも来てもらっています」

この日も若生監督の法政大時代の2年先輩で、大洋(現DeNA)で選手として活躍した野口善男さんが練習を見ていた。若生監督はコーチに「分からないことがあれば野口さんに聞けよ」と指示し、実際に相談しながらレベルアップを図る姿が見られた。

マウンドを使わないピッチング練習

また投手の練習で特徴的だったのが、マウンドを使わずに行うピッチングだ。ホームベース後方の若生監督から見やすい位置にプレーとを固定し、ファウルグラウンドを使って行っていたが、その距離は実際の18.44メートルより長い20メートルだという。この狙いについても聞いてみた。
「ピッチャーはとにかく体重移動なんですよ。これができるようになればガラッと変わる。傾斜を使わずに実際より長い距離を投げようとするには、体重移動がしっかりできないと無理なんです。ダルビッシュにもずっとこれはやらせていました。貫太(米倉)もだいぶ変わってきましたよ」

若生監督の話す貫太とは、今年のドラフト注目選手にも挙げられている米倉貫太投手のことである。時折バランスを崩すシーンもあったが、しっかり投げられた時のボールは20mという距離を感じさせないものだった。ピッチングに対しても常に鋭い視線は向けられており、腕の振りの位置などを大声で指示する姿が印象的だった。
「貫太以外にもう一人頼れるピッチャーが出てくれば勝てる」と話した若生監督。就任3年目でだいぶ手応えを感じているようだった。ベテラン監督が率いる新生埼玉栄の春以降の戦いぶりに注目したい。(取材・撮影:西尾典文)

「2017 オフトレ」関連記事



PICK UP!

新着情報