松井常夫監督の京都成章での指導歴は30年にも及ぶ。部長としては夏の甲子園準優勝を経験し、監督としても春夏共に甲子園の土を踏んだ。私学強豪校の一角でありながらグラウンドが使えるのは週2回という環境の中、どのような指導を行っているのだろうか。
――グラウンドが使える日はどんな練習をしていますか?
「特別何かというのはないですけどキャッチボールを1番大事にします。今年のチームに関してはもう一度原点に帰らせて、練習前に足を揃えて、声を揃えてグランドを5周。足が揃っていなかったらやり直し。春合宿の時はそれだけで2時間から3時間やらせました。
声が揃ってないのに気持ち揃うわけないやろ、そして負けるときはキャッチボールやと。
(春季大会の)京都外大西も守備の小さなミスから失点してしまいました」
――練習ではアップに力を入れているそうですね。
「アップをさっとしてキャッチボールをするチームもありますけど、結局それでやっても動きが悪いやないかとなります。たとえバッティングやノックの数が少なくなっとしても、きっちりした体の状態を作るというのを意識してやった方が良いと思っていますので、アップとキャッチボールを1番大事にしています。
6月に入って暑くなってきた時でも最初に20 〜30分ぐらいのトレーニングをキャッチボール前にするんですよ。普通、練習して最後にトレーニングというところが多いと思いますが、うちは終わりにはしないんですよ。1番しんどい時に1番しんどいことをさせてキャッチボールの時は体の汗が全部抜けきって、そしたら1回は体の動きいいんですよ。良い疲労感でノックの動きが良くて。ですけど、それを2日目もやると動きの良い時間がちょっと短くなってくるんです。3日目になったらアップがダラダラになってきます。それで喝を入れる。そういうのをやっておいて普通のショートアップにしたらキャッチボールやノックで体のキレが全然違うんです。それを子どもたちに分からせて、3連戦、4連戦の疲労感の中で『これで動かなあかんのやで!』というのを意識付けながら練習を行います。やっぱり大会を想定したら、グランドが使える時はいろんな戦術面(の練習を)をやりたくなるんですけど、それを我慢して最初に走り込みを入れるというスタイルにしないと」
――アップでは具体的にどんなメニューをしているんですか?
「まずは足を揃えて走って、声を揃える、気持ちを揃える。それが終わったらしっかりセルフコンディショニング、ストレッチですね。2人1組でやるんですよ15分かけて。その後、前転してからダッシュ、後転してからダッシュ、開脚前転してからダッシュ、倒立前転してからダッシュを3回ずつやるんです。それにブリッジウォーキングなどを入れてます。走り込みをする時はグランド1周が150メートルなので半分を走る、半分をジョグというのを5周。反対回りで5周。
スウェーデンリレーだったら5グループぐらい作って1周目は1周、2回目にバトンをもらったら2周、3回目の時は3周とかね。元気を出しながらするためにリレー形式でするっていうのを基本にしています」
――長い指導歴の松井監督から見て、昔と今の選手で変わったと感じるところはどういうところですか?
「昔の子は『お前、帰れ』と言ったら『嫌です』と言いよった。今の子は『はい』って帰りますよ。何が違うんやろ。だから育ててやらなあかんと思うんですよ。『帰れ』と言われたら帰りたくないと思えるような子に。そこまでは育ってきましたよね、入ってくる段階で。
そのかわり今の子たちは自分たちで考えるという作業させてやると伸びてくる。任せてやるというのをしていかないといけないと思いますね。
指導者も暴力で言うことを聞かせるということが許されない時代になったので、僕らも変わらないと何にも変わらない。志を持ってきた、その志を大事にしてやらないとアカンのやろなと思います、今の子たちは。それが弱くなったとかダメになったとかいうんじゃなくて、そういう気持ちを大事にしてやれば、やっぱり純粋な気持ちというのは今も昔も変わらへんから、親や仲間に感謝する気持ちであったりとかを伝えていかなあかんぞ、ということを言ってやれば頑張ると思いますね」