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【駒大苫小牧】氷点下のグラウンドで取り組む「規格外の練習」(後編)

2018.1.25

北海道中が燃えた2004年夏の甲子園初優勝、05年夏の連覇、そして06年夏の準優勝と高校野球の一時代を築いた駒大苫小牧。09年秋に22歳の若さで就任した佐々木孝介監督は初優勝時のキャプテンだ。昨秋の北海道大会を4年ぶりに制してセンバツ出場を確実にした佐々木監督にオフシーズンの取り組みなどについて話を聞いた。


駒大苫小牧といえば雪国の常識を覆した「雪上ノック」が有名だ。凍てつくグラウンドの打球は恐ろしく速く、不規則に跳ね、甲子園を沸かせた堅守につながった。だがここ数年、冬は基本練習を徹底的に繰り返している。

「雪上ノックや実戦形式の練習が悪いわけではありません。もともと今の2年生は能力があるんです。もっともっと強くなれるはずだし、1年生も絶好のチャンスなのに飛び出してこない。だから欲しいのは『根性』(笑)。面白くない基礎練習だからこそ見えてくるものがあるし、これだけ練習を繰り返したんだ、という強さにつながるかもしれない。例えば1年生が先輩のプレーを間近に見て『なんだ、基本はオレの方ができてるよ』とか『オレもチャンスある』と気づいて、飛び出してきてほしい。そのあたりはまだまだ不満です」

1月10日、練習開始は朝8時。55人全員が集まった。
「男になろうぜ!」とミーティングで佐々木監督が声をかける。
スケートリンクのようなグラウンドで応援歌を歌い、準備体操をして早速、学校周辺のロードコースへ。選手たちが戻ると全員で室内練習場へ移動して複数のサーキットトレーニングで絞り上げる。小崎コーチの厳しい声が飛ぶ。年末年始の17日間、サボっていたらついていけないであろう、厳しいメニューだ。

投手陣は風が強く厳しい寒さのグラウンドで時間をかけてキャッチボール。選手によっては大きめのソフトボールを使って腕の振りを意識させる。


室内ではAチームが佐々木監督のノック、Bチームが高野副部長と守備練習。年が明けても変わらずに基本を繰り返していた。

投手陣に新しい練習が加わった。昨秋急成長のエース・大西海翔、鈴木雄也、秋のエースと期待されながらケガで離脱した川口海生(いずれも3年)ら、いい競争が続く投手陣に茶木部長からの「お年玉」。水を入れてその重さを活用するトレーニングアイテム「ウォーターバッグ」はこの日がお披露目。水が揺れることでバランスが崩れ、その状態で体幹を鍛えぬく。氷都・苫小牧らしくスケートトレーニングも導入するなど基本の繰り返しの中でも常に新しいものを取り入れている。
「(監督は)新しいことへ挑戦する勇気がある」とは茶木部長。

室内では打撃練習も始まった。といっても全員でスイングから。昼休みを挟み練習開始から6時間以上が過ぎている。この日は練習後に近くの樽前山神社で恒例の初詣を予定していた。当初、報道陣に伝えられた時刻は午後3時30分だ。ところが…選手たちが息を弾ませて神社に駆け込んできたのが午後5時過ぎ。時間を忘れて練習に打ち込むのも駒大苫小牧では日常茶飯事だ。

実は4年前のセンバツから戻った頃、学校としての完全下校時刻が決められ練習環境が大きく変わった。
「1日2時間は練習時間が短くなった感覚です。僕自身、高校時代、無我夢中で練習して、気がつくと深夜だったことが何度もありました。今は練習時間が短くなっただけではなく、限界を決めず、何かをつかむまでやり抜くことが難しく、やり抜いてつかみ取る経験がしづらいのは確かです」

佐々木監督があえて絶対的な練習量にこだわり、ド根性野球を打ち出す理由がここにある。
「試合前からなりふり構わず、すべてを出し切ることで、自分たちが相手よりも勝っている面に気がつき、そうなると持っている力以上のプレーが出るんです。僕たちがそうでした。今の選手たちにもその経験をさせてあげたい」
 
年末年始2日間の取材を通して実感したことがある。
昭和の道産子球児たちは春になり土の上で思い切り「野球」がやれることを心から喜んだ。きっと駒大苫小牧の選手たちはこの春、その喜びを強烈に感じるはすだ。
今、なぜ佐々木監督が基本練習に徹するのかを選手たちは理解し、選手同士で厳しい言葉を掛け合う。誰よりも負けず嫌いで、熱い気持ちで本気で向き合ってくれる佐々木監督は選手たちにとって頼もしい、憧れの存在だ。誰に聞いても「監督を男にしたい」と目を輝かせて話してくれた。これが「駒大苫小牧」なのだ。(取材・撮影:長壁明)

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