昨年夏の甲子園ではベスト4に進出し、優勝した花咲徳栄を最も苦しめる戦いを見せた東海大菅生。夏の甲子園は17年ぶりの出場だったが、西東京大会では2014年から3年連続で決勝に進出するなど安定して成績を残し続けている。そんな東海大菅生のシーズンオフ期間の練習を取材した。
とにかく低めに投げること
東海大相模、東海大学、日立製作所とアマチュア野球の名門でエースとして活躍し、中日でプロ野球も経験している若林弘泰。昨年のチームも140キロ前後のスピードを誇る好投手を5人擁したことでも話題となったが、どんな点を投手に対して指導しているのだろうか。
「今の時代はやっぱり一人の投手で勝ち抜くことはできません。横浜高校の渡辺さん(前監督)は優勝するには準決勝、決勝の18イニングは一人で投げられるエースを作ることが必要とお話されていましたが、夏はなかなか厳しい。選手にはエースならそこを目指せという話はしますが、実際には複数の投手で戦うことになります。
自分がピッチャーに求めることは単純です。まずとにかく低めに投げること。よくブルペンでピッチング練習をしている時に、きれいな勢いのあるボールが来るとキャッチャーが『ナイスボール!』って言いますけど、それが甘いボールだったらナイスボールじゃないんですよ。150キロとか160キロなら話は違うかもしれませんが、少しスピードがあるくらいだったら甘いボールは打たれます。だから手元で垂れてもいいからとにかく低めに集めなさいということを最初に言います。
逆にフォームのことは最初にあれこれ言うとおかしくなるので、あまり言わないようにしています。低めを狙って投げていて、良いボールが行くようになったらそれが良い投げ方だということですね。低めが投げられるようになったら次は左右に広げていく。もちろんフォームはチェックしますよ。無理なくスムーズに投げられるというのが第一ですね。見ていてこっちの肩が痛くなるような投げ方は厳しいですね。下半身の力を体幹を通してスムーズに伝えて、楽に腕を振れるような投手は伸びますね」
特定のチームは意識させない
前編では意識の持ち方の重要性を語っていた若林監督だが、ピッチングにおいてもまず低めを徹底的に意識するということは非常に分かりやすかった。また、実際の試合、大会においてもどこに気持ちを置くかということを重視しているそうだ。
「以前は日大三に勝たないと甲子園はないぞということで、凄く意識していたと思います。ただそうすると日大三に勝っても、その後に負けることが続いたんですね。打倒するチームを絞ってしまうと、そこに勝った後にやっぱり気持ちが緩むと思います。だから今も大阪桐蔭に勝てるくらいのチームじゃないと全国制覇はできないぞと言うことはありますが、特定のチームは意識させないようにしています。今年のチームはいきなり負けたのでかなり下からのスタートですが、去年のチームも秋は全然でした。だからここから何とかして夏に甲子園で優勝することも十分可能だと思っています」
この日は雪の影響もあってグラウンドが使えず、ダッシュやランニングのメニューが中心だった。ようやく整備ができた後半にグラウンドを使って行われたのがキャッチボールとランニングを組み合わせたメニューだ。単純にボールを速く正確に投げるだけでなく、走りながら投げることを要求されるような動きもあり、技術だけでなく体力面の強化に繋がるものだった。また選手は5つのチームに分かれてそのスピードを競い、下位の2チームはトレーニングメニューが追加される。ランニングメニューの後ということもあって、下位の2チームに入ってしまった選手達の表情は苦しいものだったが、そんな中でも大きな声を出しながら行う練習は活気に溢れたものだった。
計画的に身体を大きくするトレーニングに取り組みながら、精神的に追い込むようなメニューもチーム全体で活気を持って取り組む。その姿勢が浸透しているからこそ、激戦区西東京で安定した結果を残すことができるのだろう。
(取材・撮影:西尾典文)
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