投手を中心にしっかり守ることがチームの基本だと話す荒井直樹監督だが、決してバッティングを疎かにしているという意味ではもちろんない。今までも色々なことにチャレンジしてきて、現在の練習に行きついたというお話をしてくれた。
バッティング練習で重視する3つのポイント
「練習方法も他の学校を参考にして取り入れたものも色々ありますが、やっぱり合う、合わないがあるなとは思っています。特に今は情報が溢れていますから、ある程度精査して絞ってやるようにしています。ヘッドが下がらないことと最短距離でバットを出すことは前提として、それ以外ではタイミング、体の割れの形、(左右の)逆の動きと三つにポイントを絞ってやっています。
実際のボールを打つ以外にはティーをやることが多いですが後ろから投げるティーでタイミングをとるための“間”と体の割れの形を作って、真横から投げるティーで逆の動きを意識します。あとはヘッドが下がらないように高めを打つ練習と、真上から落としたボールを打つことで最短距離でバットを出すことを覚える。大体これくらいです。あとはスイングが崩れている時に修正するために、これらの動きをやることが重要ですね。フリーバッティングの時にヘッドが下がってると思えば、高めを振る動きをやるだけでもだいぶ変わります。あとこの時期に毎日やるバッティング練習は6秒に一度合図をならしてスイングする『6秒スイング』です。
ストライクゾーンを9分割して1から9まで番号をつけ、どのコースを振るかを指示したうえで投手の動きとボールをイメージして各コース10回ずつ振ります。そして最後の10回目はフリーで自分の振りたいコースを振る。そうすると10分間でちょうど100スイングになります。重要なのはちゃんと投手とボールをイメージすることと、全てのスイングを全力で振ること。以前はもっと多く振っていましたが、数をこなそうとするとどうしても全力で振れないんですね。1年生は最初この100回も最後まで振り切れない子もいます」
重視する走塁技術
健大高崎に鍛えられた守備力
前編の荒井監督の話もあったが、攻撃面でもう一つ重視しているのが走塁だ。
「走者をつけてのノックも守備だけでなく走塁の練習も兼ねていると思っています。いかにアウトにならずに次の塁を狙うか、そのために走塁技術をどう上げるかというところが大事ですね。走塁のレベルが上がれば守っている方もアウトにするためにはレベルアップしないといけない。そうやって相乗効果でどちらも上げていこうとしています。走塁と言えば健大高崎さんのイメージが強いですが、おかげでうちの守備も鍛えられたと思います。最初に見た時は『なんだこれは』と面くらいましたけど(笑)」
この日は走者をつけてのノックは行わなかったものの、冬の練習だからといってただダッシュを繰り返すのではなく、実戦の動きを想定したものが行われていた。まずは投手の動きに合わせてスタートを切る練習、そしてスタートを切って一度止まって再度スタートしたら戻ったりする練習を行う。
次にはコーナーリングをよくする小回りの練習とカラーコーンを置いて内側にいる選手にタッチすることでスピードを落とさずにベースを回る練習が行われていた。
次に行っていたのが「偶数ならゴー、奇数ならバック」といったように、コーチの指示によって切り替える練習。これも素早い判断力を養い、実戦力を高めるためのものと言えるだろう。
監督1人対部員49人じゃなくて「1対1の49通り」
今ではすっかり強豪となった前橋育英だが、荒井監督の就任からしばらくは勝てない時期が続いていた。全国制覇した2013年も夏の甲子園自体は初出場であり、監督就任からは10年以上の月日が流れていた。長い年月を経て練習方法を変えてきた部分もあるが、その一方で変わっていない部分もあるという。
「選手との年齢差はどんどん広がっていますが、距離感は逆に近くなっていると思います。自分の選手時代と比べると、今の選手の方が技術的にも精神的にもしっかりしていると思うんですよ。今の方が情報も多いですし、思い返すと高校時代とか何も考えていませんでしたから(笑)。だからなるべくこちらから与えるとか教えるのではなく、考えたり感じたりする力を養わせたいと思っています。
スイングの形の話でも『今どうなってると思う?』って選手に聞くようにしていますし、ビデオを見て相手を研究するときもかしこまって分析するというのではなく、『今こうなってなかったか?』みたいなことを雑談のように言い合ってます。そういうことは若い時にはできなかったですね。逆に変わらない部分もあって、目先よりも根本(こんぽん)の話をすることが多いですね。例えば人の話をきくときも“聞く”のではなく“聴く”ようにしようと。
『聴』っていう字は耳と目と心が入ってますから、それを全部使って話をきけば人から好かれる人間になりますよと。そういう話は昔からよくします。だからこちらも『監督1人対部員49人』じゃなくて、『1対1の49通り』というのは意識していますね。
全員に対して話をするときも、漠然と全員に話すのではなく必ず誰かの目を見て話すようにしています。最終的には人間同士の繋がりですから。だいぶ前に卒業したOBには『昔と言ってることが変わらないですね』って言われたりもしますが、それはそれで進歩がないのかなとも思ったりしますが(笑)」
実際の練習で指導する場面を見ても「1対1の49通り」という意味がよく分かるものだった。体力を培いながらも実戦的な練習に取り組み、選手に考えさせる、感じさせるように指導する。前橋育英の強さの要因をそこに見たような12月の練習風景だった。(取材:西尾典文、撮影:編集部)
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