カラダづくり

【市立太田】古豪復活への第一歩食トレが努力への入り口

2018.4.24

22年前にセンバツ初出場を果たした市立太田。プロ野球選手も輩出する古豪に、2015年から新たな指揮官が就任した。同じ市にある富士重工で長年選手、指導者として活躍した水久保国一監督だ。社会人野球の強豪で培った豊富な経験を伝えるとともに、新たな取り組みとして始めたのが「食トレ」だ。


食トレとの出会い、心の中で「これだ!」

群馬県太田市は富士重工(自動車メーカー『SUBARU』)の企業城下町であり、北関東随一の工業都市である。富士重工は社会人野球の強豪として近年では2013年の日本選手権、14年の都市対抗野球でともに準優勝という輝かしい実績を誇る。前述の二大会で富士重工の監督を務めていたのが、現在市立太田を指揮する水久保国一監督だ。15年に同社から市へ出向し、市立太田の野球部監督に就任した。


部員数は2学年合わせて42人、マネージャー4人。取材当日は市内にある冠稲荷神社へ必勝祈願。1996年以来の甲子園出場を目指す。

「社会人時代にお世話になった太田市のために、野球を通じて恩返しをしたいという気持ちがありました。当時の選手たちを見たときに、まず身体の線の細さが目立ちましたね。また、精神面でも弱さを感じました。強豪私学に遠征に行けば、バスの中から相手の姿を見た瞬間に『うわー、でけー!』と驚く始末。厳しいことを言えばその時点で勝負に負けているんですよ。なんとか部を変えたいと思い、食トレを始めました」。

もともと食に対する興味はあった。社会人時代にヘッドコーチを務めたときにも栄養講座を受け、食堂のスタッフやマネージャーに選手の食事面について頻繁に相談をしていた。ただ、社会人まで野球を続けている選手たちはある程度身体の土台ができている。屈強な身体つきの水久保監督自身も、誰に指導されることなく、食事の量は多かったという。

「たくさん食べて欲しい気持ちがありますが、食べることが苦手な球児が多いのは事実。食トレを始める前も補食をとらせていましたが、一向に身体が大きくならなかった。やはり、食事だけで栄養をすべて補うことは難しいと感じました。そのために『強化食』がある。栄養が豊富に含まれ、なにより効率よく補給できる点に魅力を感じましたね。うちは公立校なので、さまざまな時間の制限がある。強化食を紹介されたとき、心の中で『これだ!』と思わず叫んでしまいました」。


内野ノックでは俊敏な動きが目立っていた。ボールの上がり際で捕球できるように軽快な足さばきでリズムよくノックを受ける。

生活に密着した努力、上のステージを目指せ

食トレを始めてから今冬で2年目。まだまだ個人によって差があるものの、徐々に食べる習慣が部に浸透している。今では練習前の補食が当たり前の光景となっているが、これは練習中に空腹になることを避けるために、選手が自主的に提案してきたことだ。お弁当を見ると水久保監督が驚くほどの量を食べる選手もいるという。監督と選手のコミュニケーションも、食トレを通じ以前より増えるようになった。

「今後は高いレベルで意識を統一していきたいですね。いくら食べても数値に表れない選手もいるので、モチベーションを保つことは簡単なことでありません。体重・体脂肪の目標数値は選手たちで決めさせ、私は挑戦していく大切さをよく話しています。大会で結果を残すところまできてはいませんが、高いパフォーマンスが可能な身体は確実にできています。夏場に身体がつる選手や、気持ちの面で自分に負けてしまう選手というのも減りましたね。そして、一番驚いたのが『ランニングフォーム』。それまで足が上がっていなかったり、身体がぶれてしまったりと悪癖がある選手もいた。でも、今では走る姿を後ろから見たら、どの選手かわからないくらい統一されています。筋肉がつき、正しいフォームを保てるようになったんでしょうね。打球の飛距離も順調に伸びています」。


バッティング練習では鋭い打球を飛ばす選手たち。同校には室内練習場があり、雨天時でも打ち込みができる。

午前中は数班に分かれローテーションで練習を行っていた。主将の山村くんを中心に大きな声がグラウンドを飛び交う。

目標に達する成功体験を味わうことが、さらなる高みを目指すためのステップとなる。最近は結果を急ぎ焦ってしまう選手が多い。だが、食トレを継続することが、野球におけるさまざまな面で優位にさせてくれると水久保監督は説く。

「生活に密着した食トレで身体を大きくすることは、選手にとって一番身近な努力だと僕は思っています。それができれば、技術練習などが体得しやすくなる。そうすれば自ずと、選手としてさらに上のステージに行けると思っています」。

選手の野球人としての将来を見据えて指導をする水久保監督。96年以来となる聖地に向け、古豪が着々と動き始めている。

野球部・監督 水久保 国一(みずくぼ くにかず)
1968年生まれ。埼玉県出身。東亜学園→日大を経て、社会人野球の強豪富士重工に就職。社業を経験しつつ、多岐に渡り野球部を選手・指導者として支えた。2016年から市立太田で事務として働く傍ら、野球部監督を務めている。

管理栄養士のお弁当チェック

おかずがたっぷりのお弁当のほかに、補食のおにぎりを持参。
「ごはんのおかずに最適なひじきですが鉄含有量が減ったのをご存知ですか?
従来は鉄釜でゆでてから乾燥させていましたが、ステンレス製釜が使われるようになったからです。鉄吸収率アップのために、ブロッコリーやピーマン、果汁100%グレープフルーツジュースなどビタミンC豊富な食品を組み合わせましょう」。

Close Up Player:山村航大くん(3年/捕手)

水久保監督に練習前の補食を提案したのが主将の山村くんだ。「トレーナーに『空腹の中で練習をするのはNG』と言われたので、部で徹底しようと思いました」。食トレを続けられる要因に成果が出たときの喜びがある。打球の飛距離が伸び、通算本塁打は現在10本。四番として打線を牽引する。「忙しい中、バランスのよい食事をつくってくれている両親に、結果を出して恩返ししたいです」。春は県大会で上位に入り、夏のシード権を勝ち取るのが目標だ。さらに、個人としては体重を増やし、パワーアップを図る。頼れる主将の進化は止まらない。

  入学時 現在
身長 172cm 173.6cm +1.6cm
体重 63.5kg 77.8g +14.3kg
体脂肪率 9.4% 17.7% +8.3%

Close Up Supporters:食トレの経験者として、チームメイトのお母さんたちにアドバイス


萩谷正恵さん(保護者会長の奥さま)

萩谷淳之介くん(3年)の母親で、保護者会長の奥さまでもある正恵さんは、じつは食トレ経験者。「淳之介の兄が現役時代に桐生高校で食トレをしていて。だから今回、特に驚きというのはありませんでした」。おにぎりを小分けにして量をとれるようにしたり、苦手な食材の味つけを変えて食べさせるような工夫をしている。淳之介くんの意識も変わり、今では大好きだった菓子パンや炭酸飲料に手を出さなくなった。お弁当の感想を毎日正恵さんに話すのが日課だ。経験者として、そして保護者会長として他のお母さんに有益な情報を与えることは欠かさない。「みんなで集まれば自然とお弁当の話になりますね。スマホで写真を送り合ったり、SNSに夕飯の画像をアップする方もいます。レシピを提供したり、今後も保護者同士で協力し合って息子たちを支えていきたいですね」。

当日は年に数回ある炊き出しの日。具材たっぷりの豚汁は選手からも大好評。

栃木県立石橋高等学校DATE
所在地:栃木県下野市石橋845
学校設立:1924年
主な戦歴:2017年秋・栃木県大会3回戦、2017年夏・栃木大会ベスト8、2017年春・栃木県大会ベスト4

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