カラダづくり

【いわき光洋】自主・自学・自立の精神、食トレで選手を伸ばす

2018.5.2

歴史の浅い公立校ながら、近年頭角を現しているいわき光洋。昨年は春夏連続で決勝進出を果たし、絶対王者である聖光学院をあと一歩まで追いつめた。2016年から始めた食トレで、選手の身体は力強くなっている。沿岸部の浜通り地区から悲願の夏の甲子園出場を目指すいわき光洋の食トレを取材した。


徐々に小さくなる身体、食事面の改善に着手

全国初の単位制高校として1993年に創立。当時は全日制の1学年が80人だったが、定員数は増え現在は200人となっている。野球部は2000年に創部。当初は県大会でも初戦で大敗を繰り返していたが、昨年の春は東北大会に出場。夏は創部以来初の福島大会決勝進出を果たす。チームを率いる渡辺純監督は11年8月にいわき光洋に赴任してから選手の身体が変化していくことに気づいた。

「ここに来て最初に見たときのチームはみんながっちりした体格をしていたんです。しかし、年数が経つと選手たちの身体つきが段々と小さくなってきているなと感じていました。そんなときに私の大学の先輩でもあり、新潟県の強豪校である中越高校で指導をしている本田監督から、食事の専門家の指導を受けているという話を耳にしました。それが、食トレとの出会いですね」。


部員数は選手が30人、マネージャーが2人の計32人。最寄り駅から距離があるため、自転車で通学している生徒が多い。


甲子園に何度も出場している私学の中越と違い、いわき光洋は公立校のため保護者の理解が必要不可欠。だが、そこに大きな苦労はなかったそうだ。

「私のような一教員があれこれ言うより、専門家の話の方が説得力があり、保護者も熱心に耳を傾けてくれたんだと思います。また、甲子園に出ている多くの学校が食トレを行っているということもあり、保護者の方も必要性を強く感じたのではないでしょうか。ただ『食べろ!』と指導するのではなくて、具体的にどの食材を、どのように摂取するのがよいということを分かりやすく話をしてくれました。初めから難しい指導をするのではなく、普段飲んでいるジュース類を、果汁100パーセントのオレンジジュースなど栄養価の高いモノに変えていこうと、簡単にできることからスタートしたことが大きかったと思います」。


昼食はグラウンドの脇のベンチで食べることが多い。

想像を超える力で甲子園へ道を切り拓く

いわき光洋が本格的に食トレに取り組み始めて間もなく2年が経つ。昨年の春夏の大会でもその効果が実感できたそうだ。

「大会などトーナメントで連戦を多くこなしても、選手の身体がバテるというのがなくなりましたね。昨年の夏も決勝戦で負けてはしまったものの、最後まで体力が尽きなかったので、理想に近い戦い方ができたと思います。あと、選手たちが『数字』を強く意識するようになったことですね。『あいつは何キロ増えた』とか、『あいつは目標体重に届いてない』、そういった会話が選手間で出てくるようになりました」。


取材日はテスト前で練習時間が短く、守備と打撃を集中して行っていた。


毎日提出するノートには食事内容も記入している。

昨夏の決勝戦は聖光学院に対し4対5。8回までは同点という接戦だった。甲子園に行くまでの“あと一歩”を渡辺監督はこう考えているという。

「うちには聖光学院さんのようなノウハウがあるわけではない。選手が私を含め大人の想像を超える力というのを発揮してくれることに期待しています。うちの校訓は『自主・自学・自立』ですが、強い学校に勝つためには選手たち自身が日々考え、動くようにならないといけません。チーム全体で行うこともありますが、選手たちに任せる部分を増やしています」。

取材当日の練習は試験前ということもあり短時間のメニューであったが、渡辺監督の指示は少なく、選手たち自ら考えて取り組む姿が非常に印象的だった。食トレにおいても同じで、指導者が厳しくチェックする光景はない。各自が日ごろから自制し、専門家に定められた目標の量をしっかり食べていた。このような自立したスタイルが高校野球の一つの理想の形ではないだろうか……そんなことを感じさせてくれる、いわき光洋のグラウンドであった。

野球部・監督:渡辺 純(わたなべ じゅん)
1981年生まれ。福島県楢葉町出身。磐城〜順天堂大。現役時代は投手としてプレー。2013年秋にいわき光洋の監督に就任し、昨年は春夏連続で県準優勝の成績をおさめた。

管理栄養士のお弁当チェック

2人分のお弁当。お肉類に偏らず野菜や果物も豊富に入っている。
ご飯のおともになる海苔、昆布、かつお節は海の栄養がバッチリ入っているのでオススメの食材です! オレンジ(みかん)といえばやはりビタミンCですが、じつはビタミンB6も多く含まれているので、肉などのたんぱく質の代謝に役立ちます。

Close Up Player:矢吹基偉くん(3年/遊撃手)

旧チームからクリーンアップを任せられている矢吹くんだが、元々身体が細く、食べることへの興味も「美味しければいい」とかなり薄かった。高校で本格的に食トレに取り組み、最初は食べることが辛いと感じていたが、身体が大きくなるにつれプレーの面でも「投げること、打つことのフォームが安定してきました」と効果を実感しているそうだ。おにぎりや、お餅などの間食で栄養を補うだけでなく、トレーニングの後には鶏肉を食べてタンパク質を摂取している。この冬も積極的な強化を続ける。夏までの目標を聞くと「体重を80キロまで増やして、単打ではなく、長打を増やしていきたいです」と力強く語ってくれた。

  入学時 現在
身長 179cm 181cm +2cm
体重 58.7kg 69.9g +11.2kg
体脂肪率 6.4% 13% +6.6%

Close Up Supporters:
専門トレーナーの指導で意識が変化
家族一丸で目指す夏の甲子園


保護者会長 矢吹定則さん 矢吹民子さん

主将である矢吹基偉くんの兄・成世くんも同じくいわき光洋でプレーしていた。二人とも食トレを始めるまでは食への関心が薄かったという。それが高校に入ってから栄養指導を受け、意識が大きく変わった。「以前はいっぱい食べなさいと言って出しても『自分で食べてみろよ!』と言われたこともありました。でも、高校に入って栄養士の方から『この身長ならこれだけ食べないといけない』という数値を出されてから、目標数値に届かせようと必死で食べるようになりましたね」(民子さん)。パン、おにぎりなど味を変えて多く食べられるような工夫をしている。「食べるスピードが遅く、夜も11時くらいまで食べています」(定則さん)と言うように、夜は片付けの時間が遅くなることも多い。「でも、全部食べてくれるので苦にはなりません」(民子さん)とのこと。お兄さんがあと一歩のところで届かなかった夏の甲子園に向け、矢吹一家の挑戦は続く。

いわき光洋高等学校DATE
所在地:福島県いわき市中央台高久四丁目1番地
学校設立:1993年
主な戦歴:22017年秋・福島県大会2回戦、2017年夏・福島大会準優勝、2017年春・福島県大会準優勝 東北大会ベスト8

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