甲子園春夏通算42回出場、全国制覇7回。全国屈指の古豪・松山商業が春季四国地区高校野球愛媛県大会を制し、秋春連覇を決めた。古豪復活の気配漂う松山商業を率いるのは2020年に監督に就任した大野康哉監督。そんな大野監督の自著『選手に寄り添う徹底力』(竹書房)から、一部を紹介します。
踏み出した改革への第一歩
たしかに松山商には春夏の甲子園で優勝7度、通算80勝という輝かしい歴史がある。しかし、私が赴任した当初から選手に言い続けているのは「伝統とは受け継ぐものではなく、自ら闘い獲るものである」ということだ。私は今治西時代からそういう考え方でやってきた。ただ、結果が伴っていた今治西と、なかなか結果が出ていない松山商では事情も違う。そのうえ、松山商は結果が出ていないにもかかわらず、選手たちがいろんなものを背負いすぎている部分があるように見えた。私が思うに、伝統とは継承する意味のあるものが本物の伝統だ。それ以外のものは、伝統ではなく、ただの習慣に過ぎない。その習慣も良いものであればいいのだが、そうでなければ「悪習」となって定着してしまう。だから、そう感じる部分は、私が監督となったことをきっかけに、自然と除いていけたらいいと考えた。
私が転勤してきた当初は、休校が長引いたため寮生活しか送ることができなかった。その間、私は選手たちに「こんなところが変じゃないか」という点をいくつか挙げた。今治西時代に感じていた松山商の選手の様子などを見て、気になった6つのポイントを並べてみたのだ。
これは、あくまでも私が「ここを直していかないと良くならない」として立てた見通しだ。従来のことに対する否定的な考えではあるが、決してそれまでの監督さんや松山商そのものを批判したものではないので、そこはご理解いただきたい。次が、その内容である。
(1)指導者の責任感が、選手の過剰なストレスの原因となっている
(2)選手はルールを守ることに精いっぱいで、自分を試す機会が与えられていない
(3)変化に柔軟に対応することよりも「予定通り」が優先されている
(4)安全管理への意識が低く、ケガや故障、病気の専門医など救急体制が定まっていない
(5)力量と目標がかけ離れすぎていて、一歩一歩積み重ねることによって得られるべき自信が選手に芽生えていない
(6)野球部の活動への義務感が、選手の学校生活を圧迫している
失礼だと感じる部分があるかもしれないが、実際問題として結果が出ていないということは、不足しているものがあるはずなのだ。そして、私はこれらの見直しから問題点の改善に着手していったのだった。