トレーニング

【球速アップ講座】彼らが速いボールを投げられる理由|奥川恭伸(星稜)編

2019.4.25

人気コーナー「球速アップ講座」でおなじみの相原雅也さん(元四国アイランドリーグ高知、新日鐵住金かずさマジック・現ホグレル硬式野球部監督)。プロ野球選手のパフォーマンス向上にも取り組んでいるピッチング指導のスペシャリストだが、そんな相原さんにこの春の選抜高校野球で活躍した投手の特徴について解説していただきました。まずは奥川恭伸(星稜)投手からです。


踏み出し足はSB千賀、グラブの使い方は巨人上原



――選抜で最も注目を浴びた投手と言えばやはり奥川投手だと思いますが、奥川投手のピッチング(事前に編集部が送った動画など)をご覧になって、どのあたりに良さがあると感じられましたか?
「まず一番はコントロールの良さですよね。ストレートだけじゃなくて変化球もコントロールできる。あれだけ変化球の精度が高くて、更にストレートも速いとなると多少ボール球でも打者は振ってしまうと思います」

――フォームの特徴としてはどんなところにありますか?
「今のプロ野球で言うとソフトバンクの千賀(滉大)投手や、前回の時にお話させていただいた選手では根尾(昂/大阪桐蔭→中日)選手に近いと思います。高い位置からドンと踏み出して、(踏み出した)左足一本で支えてクルっと回るタイプですよね。その左足が機能するかしないかで投げる腕の使い方も変わってくると思います。
上半身について言うと、左手の使い方が上手いですね。グラブを後ろに持ってくるのではなくて、前でしっかり止めてそこに体を持っていける。巨人の上原(浩治)投手に近いところもありますね」




――敗れた2回戦の習志野戦では1回戦に比べると本調子ではなかったように見えました。
「1回戦で完投して中4日ですか? 初戦と比べて疲れもあったと思いますし、相手の習志野高校さんも揺さぶってきたと思うので、そういうところから多少ずれがあったのかもしれませんね。一気に左足に乗ってその勢いで回転するので、その着地が上手くいかないとその後の動きも崩れてしまうと思いますね」

――疲労と言っても肩や肘ではなく下半身ということですね。
「そうです。特に左の股関節ですね。奥川くんの上半身の動きを見てみると腕の振りはコンパクトですよね。下半身が万全ならその強さがあって回転力も生み出せるんですけど、それが多少の疲労で上手く止まれない、回れないとなると、上半身や腕の力で何とかしようとして本来のコンパクトさがなくなって、微妙なコントロールに影響が出てくるということは考えられますね。ちなみに習志野戦の映像も見られますか?」

――(映像を見せながら)これが習志野戦ですね。
「見てもらいたいのは右足ですね。右足の跳ね返り具合が1回戦と比べると少し小さくなっていると思います。しっかり着地できていないから、その反力も弱くなって躍動感もなくなってるんですよね」

――本人にも下半身が疲れているという自覚はあるものなんでしょうか?
「奥川くんクラスのピッチャーになれば自分の調子のバロメーター、チェック項目を何かしら持っていると思います。正確なところは本人に聞いてみないと分からないですけど、客観的には回転力、スピンに影響が出ているように見えますね」

――変化球も含めてコントロールが良いというお話でしたが、その良さを生み出している要因はどのあたりにありそうですか?
「先ほども腕の振りがコンパクトと言いましたけど、回転力が強いので腕を目いっぱい使わなくていいというのがあります。前で鋭く回転できるので打者に近いところでもリリースできる。腕に頼らないからそれだけ余計なことをしなくて、その分コントロールも安定してくるということですね」


奥川投手と普通の高校生の投手との差

――腕の振りが小さくコンパクトでも強いボールを投げられるのはやはり下半身、左足の着地によるところが大きいということですね。
「下半身の強さがない投手で奥川くんのように投げようとしてよくあるのが、左足を着地した後にその反動に負けて体が前に行けないというケースです。着地した足で勢いを止めるのが精いっぱいでそれを回転まで持っていけない。ちゃんと止まって鋭く回るところまでできる。それが奥川くんと普通の高校生の投手との差だと思います」

――外から見ていると奥川投手はステップ狭いように見えるのですが、その点についてはいかがですか?
「確かに狭いですね。彼が回りやすい幅があの幅だとすれば、股関節が硬いというのはあるのかもしれません。だからこそ余計に股関節、下半身の状態の良し悪しで結果が変わると思います」

――単純に歩幅を広げた方が良いというものでもないですか?
「そういうものでもないですね。今の彼の体の状態で最も回りやすいのが今の歩幅だと思うので、無理に広げてしまうと鋭く回転する投げ方ができなくなって、良さもなくなってしまうかもしれません。あれくらいのレベルのピッチャーなので、あれこれ言うよりも、まずは本人の感覚通りに投げてもらった方がいいと思います」

もしも相原さんがコーチだったら?

――このあたりを改善すれば奥川投手が更に良くなるのでは? というような部分はありますか?
「高校生としてはかなり完成度が高いことは間違いないですが、強いて言うならば狭い歩幅での回転力で投げている分、変化球の曲がりが若干早いように見えます。映像を見る限りですけど、プロに行くと振ってくれないだろうなというボールもあるなという印象です。
もし自分がコーチだとすれば、まず本人がどれくらい股関節の動きができるかを確認するところから始めます(下記動画参照)。

先ほど歩幅を広げればいいというわけではないと言いましたが、お尻とハムストリングで動きを作っていって、いきなりではなく、徐々に広げていけるようにしていけるといいですよね。両足を開いて膝とつま先の向きを揃えた状態で沈む、左右に動かす、骨盤を起こすなどの動きですね。あとマシンを使って動かすことも効果的だと思います。その結果少しずつ打者の近くでリリースできるようになれば、ストレートのスピードは変わらなくても打者の近くで速く感じられて、変化球も打者の手元で変化するようになると思いますね」





(取材:西尾典文/撮影:編集部)

▼球速アップアドバイザー 兼ホグレル硬式野球部監督 相原雅也
http://www.hogrel.com/hogrel/baseball.html
▼ホグレル硬式野球部
http://ameblo.jp/yoannahogrel/entry-12230520276.html
 

「球速アップ」関連記事



PICK UP!

新着情報