トレーニング

筑波大学川村監督が語る「速いボールを投げる条件と方法」(後編)

2018.8.23

野球の動作解析のスペシャリストである筑波大学の川村卓准教授(硬式野球部監督)に速いボールを投げるポイントについてうかがうインタビュー。前編では重要なポイントや身体の使い方についてお届けしたが、後編はなぜ速いボールを投げる投手が増えたのか、そしてそのためにはどんなトレーニングが有効かなどについてお届けする。


ーー以前は140キロを投げれば速いと言われていましたが、今は高校生でも毎年のように150キロ以上投げる投手が出てきています。プロ野球でもスピードアップしていると思いますが、その背景には何があるのでしょうか?
「まずはどういう動きをしているかを映像としてしっかり見られるようになったことが大きいと思います。
野茂英雄投手のドジャース時代のフォームを撮影した映像がCMで使われたことがありましたが、リリースの時に腕が内旋していることがはっきりと分かりました。
それまではシュートを投げるような腕の振りと思われていた投げ方でストレートを投げていると分かったわけです。

あとは前回お話した指の動きもそうですよね。
それまで漠然とイメージで持っていたものが、細かい部分まで見られるようになったことは大きな進歩ですね。
そして速いボールを投げる投手の動きが分かると、そのためにどの動きを改善したら良いかが見えてくる。
そうやってトレーニング方法が進化して、広く伝わったことが大きな要因ではないでしょうか」


ーーでは具体的な練習法、トレーニング法で有効なものをいくつか教えていただけますでしょうか。
「よくトレーニングというと負荷をかけて鍛えるイメージが強いと思いますが、まずその前にやるべきだと感じているのは機能的なトレーニングです。
簡単に言うと動きを改善するためのものですね。下半身の安定が重要だという話をしましたが、そのためには股関節がしっかり動く必要があります。
よくやるトレーニングは『アウフバウ』と呼ばれるもので、仰向けに寝た状態で片脚ずつ上げるのを内旋、外旋という動きを入れながら行うものです。
そうすることで股関節を回す動きが改善されます。
あとよくやるのは『ランジ』というトレーニングです。
両足を前後に開いて、踏み出した足をそのまま戻す動きをするものです。
踏み出した時にしっかりと身体を安定させることがポイントですが、意外にふらついてしまうことが多いです。
どちらも負荷としては大きいものではありませんが、最初は自分の身体の重さだけで十分効果があります。
最終的には重いものを持ちながらやったりして負荷をかけていきますが、まずは筋肉を使うことが重要です。
そして速いボールを投げられる選手は筋肉の強さはなくても上手く使えていることが多いですね」



ーー下半身を鍛えるという意味ではよく走り込みについての有効性の有無が言われたりしていますが、走ることについてはどうですか?
「単純にただ量を走れば良いということはないと思います。
ただ走ることも上手く使えば有効だと思います。
投げる動きは横を向いた状態で上手に身体を使うことがポイントになりますので、サイドステップのような動きは有効ですね。
バック走といって後ろ向きに走るのも普段あまり使わない脚の後ろ側の筋肉を使うので意味があります。
あとクロスカントリーのように、不安定な場所を走ることも良いと思います。
不安定な環境で安定して走ろうとすることで身体の使い方が変わってきます。
そういうことを組み合わせながら、重心が上下動しなくてガムシャラに動かなくてもスーッと走れるようになると、ピッチングにも良い影響が出てくることが多いです。
プロに行った坪井(俊樹・元ロッテ)も入学してきたときは針金みたいに細かったのですが、下半身が安定してポール間を走っている姿が変わってからピッチングも良くなりました」


ーー遠くに投げられることと速いボールを投げることは別だと思うのですが、遠投についてはどうですか?
「下半身から上半身に効率よく力を伝えるための練習としては間違いなく有効です。
ただおっしゃる通り身体の回転が鋭くて軸が安定していれば遠くには投げられますが、投手として速いボールを投げる動きとは違ってきますよね。
ピッチングの動きとしての練習では40メートルくらいまでが良いと思います。
それ以上の距離を投げようとすると、動きが変わってきますから」


ーー他に速いボールを投げるうえで重要なポイントがあればお願いします。
「どのトレーニングもいきなり即効性があるものではありません。
ただすぐに結果に出なくても、刺激を与えることが重要です。
いきなり強さを求めるのではなくてまずは身体、筋肉を使うこと。
そうやって使い方を覚えた選手は後で身体に強さが出てきた時に速くなることが多いです。
そのことを理解したうえで練習、トレーニングに取り組んでもらえればと思います」


これまで数多くの選手を指導し、また研究してきた川村監督の話だけに非常に説得力のあるものだった。速いボールを求める気持ちは分かるが、まずはしっかりと筋肉と身体を使えるようになるところからスタートするのが有効だと言えるだろう。これを読んで、一人でも多くの投手が故障することなく速いボールを投げられるようになることを望みたい。
(取材:西尾典文、写真:編集部)

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