中京大中京、東邦、愛工大名電と並んで「私学4強」と言われ、愛知の高校野球を牽引してきた学校の一つである享栄。しかし近年は新興勢力の台頭もあって2000年春を最後に甲子園出場からは遠ざかり、厳しい戦いが続いている。そんな状況を打破するべく、復活の切り札として昨年秋監督に就任したのが、ライバルである中京大中京で全国制覇を成し遂げた大藤敏行監督だ。その大藤監督にこの時期に特に注力していることなどについて話を聞いた。
——秋の県大会も終わり、残念ながら東海大会に出場することはできませんでしたが、10月、11月のこの秋の時期に主に取り組んでいることはどんなことになりますか?
「この期間は冬に向けてまずは個々の足りないところをあぶり出す時期だと思っています。東海大会に出場しているチームと比べると何が足りないのかということで、出場するチームとの練習試合も組んでいます。この秋の新チームはレギュラーの9人中7人が1年生ということで経験も足りなかった。だから練習試合も多く組んで、まずは実戦の中から課題を見つけていく必要がありますね」
——普段の練習でこの時期だからこそというものはありますか?
「何か特別なことをやるのではなく、基本的なことの繰り返しですね。技術を上げるには同じことの繰り返しを、いかに高い意識を持って取り組めるか、それが重要だと思います。それには当然体力が必要ですし、忍耐力も必要になってきますよね」

——享栄の監督に就任されて約1年ですが、当初とチームの中に変化のようなものはありますか?
「最初はミーティングもほとんどしないので驚きました。試合で負けても何が原因だったのかを振り返ったり、また相手チームのことを調べたりするようなこともしない。個人の能力は決して低くないのにもったいないなと思いましたね。自分たちが選手だった時の中京もそうだったんですけど(笑)。それでノートを書くようにしたんですけど、最初の頃はなかか内容のあることが書けませんでした。これができなかったので”次はできるようにしたい”みたいな単純なプレーについての感想みたいな感じですね。
まず野球のこと以外を書いてこない。でもそれは結果が出てなかったからかなとも思いました。だから野球以外の普段の生活が野球にも繋がるんだよということを話して、そういう面から取り組むようにしてみようという風にやっています。そうすると徐々にノートの内容も変わってきました。できないわけではなくて、訓練すれば書けるようになりますし、そのことで意識も変わってきたと思いますね」

——チーム全体で具体的に取り組んでいることなどはありますか?
「体つくりはやはり大事だということで、体重管理は細かく行うようにしました。マネージャーに過去15年の甲子園優勝チームの身長と体重を調べてもらって、それと比べてどうかということを意識するようにしています。勉強ができるマネージャーが入ってきてくれたので、色々調べてくれて、食事についても何を意識してどのタイミングで摂ればいいのかということも選手に伝えてくれています。やっぱり明確な数字に分かるものは意識しやすいですよね。あとは記録に残すことによって、どれだけ増えてきたかということも自信になりますよね」
——グラウンドで選手が変わってきたと思うことはありますか?
「以前は意味のない声とかが多かったですよね。ある選手がミスをすると、それに対して他の選手が叱責するような声が続く。それだけだとただのいじめやパワハラじゃないですか。ミスした方は当然悪いと思っているわけですから、それに追い打ちをかけてもあまり意味がありません。でもミーティングで話し合ったりしてコミュニケーションをとる機会を増やすと、お互いがどんなことを考えているかも分かるようになりますよね。そうなると相手に対する思いやりも出てくる。そういう部分が徐々にグラウンドでも見えるようになってきたかなとは思いますね」(取材・写真:西尾典文)
*後編では大藤監督自身の変化などについてお届けします。
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