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【享栄】全国制覇監督が現場を離れて学んだこと、気づいたこと(後編)

2019.10.29

2009年夏には堂林翔太選手(現広島)などを擁して中京大中京を夏の甲子園優勝に導いた大藤敏行監督。その翌年には中京大中京の監督を退き、U18日本代表のコーチや秋田の「高校野球育成・強化プロジェクト」などにもかかわり、昨年秋に享栄の監督に就任した。一度外から野球を見たことによって大藤監督自身の野球観も変わったそうだ。


——中京大中京の監督を退かれてからは甲子園で解説をされたり、高校日本代表のコーチをされたりなど、今までにない活動をされていらっしゃいました。そのことが今の指導に生きている部分もあるのでしょうか?

「それはとても大きいですね。本当に良い経験をさせてもらったと思っています。まず代表のコーチをしたことで、色んな学校の選手が来ますよね。それぞれバックグラウンドが違う選手が集まる。そういう選手達の話を聞いていると、自分のチームの選手に対して無知だったなと思い知らされました。そんな状態で偉そうに話していてもダメだなと。もっと選手について知ろうと思いました」


——秋田県の『高校野球育成・強化プロジェクト』でもアドバイザーを務められていましたね。

「秋田での経験も大きかったですね。NHKで解説をされている前田正治さん(元日本新薬監督)、オリンピックの強化スタッフも務められていた清水隆一さん(元熊谷組)とご一緒させていただきました。二人とも社会人野球の一流だった方ですけど、本当に子どもに対して丁寧に教えるんですね。正しいことを言葉で伝える。言ってしまえば簡単なんですけど、自分がいざできていたかというと、全くできていなかったと思いましたね」




——それが現在の指導に生きている部分としてはどんなことでしょう?

「選手に対する接し方は変わったと思いますね。こちらから一方的に何かを言うのではなくて、何を求めているか、今何が足りないかを一緒に考えたり聞き出そうとしたりするようになりました。まだ(中京大)中京の監督だった2009年に日米親善野球でアメリカに行った時に、メジャーでもMVPを獲得した経験もある監督に『監督、コーチの仕事は何ですか?』と聞いたら、『Help』だと言ったんですね。これは通訳なしでも聞き取れました(笑)。いかに選手を助けられるか、助けになってやれるか。そういう発想はそれまでなかったですね。先ほど話した前田さんや清水さんはまさにそういう指導をされているなと。本当に外から勉強させてもらった良い期間だったと思います」


——選手が何を求めているか、気づきを与えるための取り組みとしてはどんなものがありますか?

「これも別に新しいことでもなんでもないですけど、マネージャーが【PDCAシート】を用意してくれて、それを書いたりしてますよね。これもただそのまま『PDCAってこういうものだ』と言うのではなく、それを野球に落とし込むとどうなるかということもマネージャーにまとめてもらいました。正しい言葉で伝えることですよね。これも最初はできなくても訓練で書けるようになります。そういうことの積み重ねが結果に繋がっていくんじゃないですかね。
(中京大中京時代に指導した)嶋基宏が大学の時に手紙をくれたんですけど、そこには『誰でもできることを誰よりも一生懸命やります』と書いてあったんですね。改めていい言葉ですよね。自分はそのための手助けをできればいいと思いますね」


マネージャーが手渡してくれた【PDCAシート】には野球への落とし込み、書き方のポイントが非常に分かりやすくまとめられていた。



また練習中、お話にもあったように大藤監督から一方的に指示を出すのではなく、選手と会話して、都度確認しながら進める場面が何度も見られた。1年生が多くてまだ若いチームと大藤監督は話すが、今のやり方が浸透していった時、新しい時代の享栄の野球が甲子園で見られるかもしれない。そう感じる大藤監督のお話と練習風景だった。(取材・写真:西尾典文)

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