
重視するのは人間性。「智弁和歌山から出た選手は次の世界でも必要とされる選手であり人間になって欲しい」というのが中谷監督の願いだ。高校野球では甲子園という大きな目標があるが、それが人生の全てではない。
「高校野球の中で3年間に賭ける大きな目標があっても、ここで燃え尽きて欲しくない。ここから先が本当の人生。厳しく指導するのは技術より人間的な部分の方が多いです。高校生とはいえ子供なので、出来ないことの方が多い。その前提で話をしているので、出来なくて当たり前の中で出来るようになるために一緒に考えていくのがこの3年間です。ウチの選手は大半が大学に進むので、社会に行くまでの時間に周りから評価される人間になってもらいたいんです」。
練習での中谷監督の表情を見ていると、大きな声を張り上げたり、厳しい言葉を連発することはほぼない。中谷監督のモットーは「教えないこと」だ。言葉だけを見ると疑問符がついてしまうが、この中には深い意図がある。

「指導者は基本的には教えてはいけないんですよ。教えられすぎている選手は、ほとんどが教えられるまで自分で変えることができないんです。自分で工夫ができないとも言います。要は感じることができなんです」。
野球を通じて社会に出ても大切なことを教えたいと思っても、実際は社会に出て手取り足取りずっと教えてくれる者はいるだろうか。最初はやるべきことを教えてはもらうが、それ以降は自分で考えて動かなければならない。実際に現場に立っていくうちに「こういう時はどうしたらいいんだろう。こうしたら相手はどうなるだろう」と相手の気持ちになって考えれば分かることも多い。それが積み重なり“気づく”という感性が磨かれていく。
最初は壁に当たったり失敗することも多いが、中谷監督は結果に関してはとやかく言わない。「結果よりも結果に対してのプロセスが大事。そこに向かうために、どう取り組んできたかです」と話す。(取材・写真:沢井史)
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