人気漫才師から学んだ選手達との関係性
こちらとの会話で出てきた本のタイトルについても小菅監督はメモを取っており、そういう姿勢からも指導者としてアップデートしようという意識が強く感じられた。また、そうやって学ぶ材料としてお笑いから心理療法まであらゆる話題も出てきた。
「さっきもノックの時に自分の上をボールが飛んでいる話をしましたけど、最近の高校生は保護者からも上から押し付けられるのではなくて、子どもファーストで育てられてきていると思うんですよね。それなら指導者もそうした方がすんなり受け入れられやすいはずです」
そう思えるようになったきっかけは人気漫才師の漫才だった。
「“ぺこぱ”から学びましたね。ツッコミの方は何をされても受け入れますよね。例えば漫才のなかで事故に遭ったとしても『なにしてんだよ!』ってツッこむのではなく『事故があっても生きているだけで良かった!』みたいな、あれね(笑)。あれを見ていて本当に自分は腹落ちしたんですよ。監督だから俺の方が偉いんだぞというのがまずおかしな話なんですよね。
あと最近勉強したのは認知行動療法というものですね。勉強したと言っても本を読んだだけですけど、ある状況になった時にそれをどうとらえるかとその後の行動にどう影響が出るかということに注目したものです。メンタルトレーニングとは違うんですけど、そういうことを知っておいたことが甲子園で普段通りにできたことにも繋がったかもしれませんね」
2020年にはコロナ禍であらゆる大会が中止となり、大変だったことも当然多かったというが、そのことも現在のような指導方針に拍車をかけた部分があったそうだ。
「コロナ禍になって、なかなか全体で練習もできなくてということをみんな経験しましたから、より一層言われたことをやるんじゃなくて、逆に自分でやらないといけないということを感じた子が多かったんじゃないですかね。今年高校3年生、2年生の世代は中学の前半でそういうことを経験してきたわけですから。あと自分もそうですけど、本当に普段通り野球ができていることのありがたみを改めて感じましたよね。そういう感謝の気持ちを持てるようになったのも以前との変化かなと思います」
取材当日の練習は2年生のスポーツクラスが修学旅行で不在のため、比較的軽めにメニューだったが、それでも「観察することが仕事」と語るように、小菅監督からの指示は非常に少なく、その中でも選手たちは監督の視線を過剰に意識することなく練習に取り組んでいる様子が感じられた。また高校の野球部としては異例となるチーム紹介ムービーも作成し、YouTubeに公開している。今後もこのように指導者、チームともにアップデートを繰り返す学校が全国に増えていくことを期待したい。(取材・文:西尾典文/写真:編集部)
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