堤監督が歩んできた数奇な野球人生
無尽蔵のアイデアが沸き上がる背景には、堤監督が歩んできた数奇な野球人生がある。中学時代はほとんど野球をしておらず、高校は強豪とはいえない都立高校で自分で考えて練習。大学は一転、強豪・東北福祉大で金本知憲(元阪神ほか)ら全国レベルを体感した。大学卒業後は海外青年協力隊に応募し、ジンバブエで2年、ガーナで1年、野球の普及に取り組んだ。
その後はマネジメント会社に勤めてプロゴルファー・諸見里しのぶのマネージャーや、ビジネスマンとして億単位の金額を動かす仕事に携わった。そんななか、諸見里の母校であるおかやま山陽との縁が生まれ、2006年に野球部監督に就任。その詳細は堤監督が著した『アフリカから世界へ、そして甲子園へ規格外の高校野球監督が目指す、世界普及への歩み』(東京ニュース通信社)で明かされている。
堤監督が高校野球を指導する最大のモチベーションになっているのは、「野球の世界的普及」にある。ユニークな練習メニューの数々も、「野球をまったくイメージできない海外の人でも、うまくなれるようにするため」という願いがこもっている。
「野球はルールが複雑だし、道具も多い。一方、サッカーはボールさえあればできるから普及する、という話をよく聞きます。でも、道具が1個しかないのはビジネス的な視点から考えれば魅力にはなりません。サッカーが普及したのは、大航海時代にイギリスが植民地を広げた際に広まった要因が大きい。そうした歴史まで知らないと、野球の普及は難しいと思いました。アフリカでは貴重なサッカーボールを潰してまでグラブを自作して、『オレは野球のほうが好きだ』と言うヤツもいました。それを見て、私は『野球は絶対に普及する』と思ったんです」
甲子園を本気で目指し始めたのも、「甲子園に行けば『野球普及』の取り組みがメディアに取り上げられるから」と堤監督は語る。今も定期的に中古の野球道具を集めては、開発途上国に贈る活動を続けている。
野球の世界普及のために甲子園へ――。そんな野望を秘める堤監督にとって、今年は大きなチャンスを迎えている。(取材・文・写真:菊地高弘)
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