成長する機会に蓋をしない
練習中、特に驚かされたのは選手たちが佐藤監督、原コーチの様子を全く気にすることなく取り組んでいるという点だ。聞くと、どんな練習を行うかは前日にキャプテンと各部門のリーダーが話し合って決めて報告しており、それに対して佐藤監督も助言を求められればアドバイスすることはあっても否定することはなく、選手の意思を尊重しているのだという。
その効果は練習中の選手の姿勢にも確実に表れてきていると佐藤監督は話す。
「こちらが何かを教えなくても、それぞれ選手は良いものを持っているんですよね。だからそれをお互いに共有して教えあった方が上手くいくと思うんですよ。
そんな話をして、こちらからは選手の良い部分を言うようにしていたら、上級生ができている下級生に聞くようになってきたんですよ。それを見てしめしめと思いましたね。聞かれて教える側も考えを整理しないといけないので、より理解が進むんですよ。選手同士で教えあうというのは野球教室をやってきた時も同じでした」
前述したようにグラウンドの選手を見ていても、監督やコーチの様子を伺うことはないが、選手同士が話し合う姿や指摘するシーンは頻繁に見られた。選手が指導者の指示通りに一斉に動くことが多い高校野球にはなかなか珍しい光景ではないだろうか。佐藤監督は以下のように続けた。
「今までの高校野球のやり方に慣れた指導者の人がうちの練習を見ると緩く見えるみたいです。
でも結局こだわっているのは見た目なんですよね。全員が丸刈りで揃ったユニフォームを着て、足も声も揃えて練習していた方がキビキビして見える。ただそれだけのことだと思います。
うちの選手の様子をよく見ていると、目的意識を持ってやっていることがよく分かるんですよ。そうやって自分で考えてやった方が上達しますから。よくそんな話を他の学校の指導者にすると『うちはまだそんなレベルじゃない』みたいなことを言いますけど、そんなことはないんじゃないですかね。大人が何かやっていないと不安だから、それを押し付けて選手たちが成長する機会に蓋をしてしまっていることがよくあると思います」
もちろん選手に任せているだけで全てが上手くいくわけではない。佐藤監督、原コーチとも取材で話を聞いている時も、声を出すことはなくてもグラウンドの様子は常に気にかけているように見えた。
また定期的に専門家であるトレーナーを招いてトレーニング方法の指導などは行っているという。押し付けではなく、あらゆるやり方を示し、選手に考えさせ、必要であればアドバイスする。そのサイクルが上手く回ったからこそ、昨年秋の結果に繋がったと言えるだろう。
後編では佐藤監督が新たに取り入れたこと、大事にしていることなどを紹介する。
(取材・文:西尾典文/写真:編集部)
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