「地区大会第5代表」の東北高校がなぜ、東北大会で優勝することができたのか。
エースを含むメンバーの配置転換、1年生の躍進、伏兵の意地、土俵際からの粘り……。さまざまな要因が上がるのですが、実はそれとは別にチームが結束した「あるキッカケ」があったのです。
4月29日。中部地区予選で仙台商に1-7で敗戦した日の夕方。グラウンドでは、選手間による反省会が行われていました。
「ヒット数も失策数もほぼ同じ。なのに得点は7点と1点。この差は、いったい何なんだ」
気の緩みから、肝心な所でミスが出た。
相手が公立だと、なめていたんじゃないか?
生活態度や、練習中の全力疾走。当たり前のことができていなかったんじゃないのか?
全員の気持ちがバラバラだったことを認め、各人が反省しました。
自分に自信がないから、気持ちが一つになれない……。
その時、背番号20で伝令役も務める小田島拓海選手がこんな提案をしました。
「秋の時のように、みんなで頭を五厘刈りするのも1つの手じゃないか?」
そう、昨秋の県大会は全員が頭を丸めて戦いました。バリカンのアタッチメントを「無し」の設定で髪を剃る、いわゆる“五厘刈り”です。その効果で(?)秋は3年ぶり秋の東北大会出場。「ゲン担ぎ」も含めての提案でした。そのあと「五厘会議」はヒートアップ!
「五厘刈りしたからって、野球の本質は変わらないだろ!」
「嫌々やってるヤツが一人でもいたら、それは逆に意味がない!」
話し合いは30分近く続き……。
最後は児玉修哉主将の「秋やれたことを春できないのはおかしい。もう一度気持ちを一つにしよう」の言葉で全員が納得したのです。
ヒートアップした「五厘会議」から4日後――。
頭髪をそろえた選手たちは、試合に快勝。ドンドン勝ち上がっていきました。
東北大会で優勝したとき、小田島選手は「青白かった頭が日に焼けて、黒になりました」と笑い、長く公式戦を戦えた喜びを実感したのです。
「こうしないと(五厘刈り)、スイッチが入らないんですかね(笑)。内容はどうであれ、熱くなって討論したことが大事。無関心にならず『バトル』することが必要だったのでしょう」と鈴木雄太コーチは言いました。
五厘刈りの賛否はどうであれ、これも高校野球の「リアル」なのです。
6月23日、宮城大会の抽選会が行われ、第2シードの東北のヤマが決まりました。開幕まで約2週間です。東北大会優勝の時、「夏の優勝じゃないので素直に喜べません。ウチはまだまだ未完成で、強いわけではありません」と、表情を引き締めた児玉主将。
「本当の強さ」を手に入れて7年ぶりの甲子園へ。心を熱く、一つにして、72校の頂点を狙います。