「昭和の日」で体作りとパワーアップ
壁を乗り越え、殻を破った選手たち。それは河室監督が仕掛けた“パワーマジック”が、功を奏した結果でもあった。
選手の能力値はあるものの、試合終盤になってスタミナ切れを起こし、最後まで踏ん張り切れない。それが赴任前に外から見ていた大分舞鶴の印象だった。
「本来、公立進学校の多くは私学のパワー野球に対抗するため、技や策に走りがち。しかし、ちまちま1点ずつ重ねたところで、たったひと振りで試合をひっくり返してしまう強豪私学のパワーにはかないません。むしろ、練習時間の限られた公立だからこそ、ピッチャーもバッターも体作りをしっかり行なって、パワー勝負できるようにならないと」
そこで河室監督は、トレーニング専門の理学療法士と連携し、選手の心身を徹底的に追い込むトレーニングの日を定期的に設定した。その名も「昭和の日」である。
昭和の日は1時間ランに始まり、個人+チームが100本を完全捕球するまで終わらない100本ノック、塁間を行ったり来たりしながら2往復を完全捕球するまで終わらない2本捕りノック、マシンを用いて外野を左右に大きく振るアメリカンノックを実施。一方で丸太を持ってのスクワットやハンマーを使ってのタイヤ打ちといった、昔ながらの原始的な体幹トレーニングも取り入れる。これらを全員がローテーションで行なうのだ。その大まかなメニューは河室監督が設定し、細かい部分の肉付けをコーチ陣が担当していくのだという。
「勘違いしてほしくないのは、本当に昭和の時代にやっていたメニューをやらせているわけじゃないということ。当時のトレーニングメニューの中には、体の故障を招きかねない理不尽なものが多かったのですが、この時代に最優先で考えるべきは怪我の予防です。しかし、こんな世の中でも、科学だけでは身に付けることができないものもあります。辛い練習に全員で取り組み、全員で乗り越えてきたという一体感を生徒に養ってもらいたい。それが『昭和の日』の一番の狙いなんです」
その成果が顕著に表れたのが2021年秋。明豊に敗れて県準優勝に終わった大分舞鶴だが、2回までに1-8という大劣勢から最終的には9―10と1点差にまで詰め寄った。また、鹿児島で行なわれた九州大会は、激しい雨の中で9回二死ランナーなしからプロ注目の大野を攻め、土壇場で同点とする粘りを発揮。「昭和の日」で負荷を掛かけた練習を続けたことで、試合中のベンチでは仲間を効果的に鼓舞するような声が以前に増して飛び交うようになり、試合展開を読んでの戦術的な会話も明らかに増えてきたのだという。
強豪私学に対峙するために求められるのは、強靭な肉体とチームの一体感。見事に「昭和の日」を結実させた大分舞鶴は、こうして聖地への切符を手にしたのだった。(取材・文:加来慶祐/写真:編集部)
*後編に続きます
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