トレーニング

【仙台育英】名将によるバッティング上達メソッド!(須江航 監督)

2022.4.22

ミートポイントの確認
振り出す準備を早く作る 

飛距離と打球速度の獲得を目指す冬。細かなフォームは気にせず、フルスイングしていいのだが、その中でも注意点が2つある。ひとつは、ボールをとらえるミートポイントだ。
「遠くに飛ばそうと思えば、必ずポイントが前になっていきます。腕が伸びたところでとらえたほうが、引っ張った打球は飛んでいきますから。それはそれでいいとして、彼らには『ポイントが前になることだけは、理解しておくように。実戦で打とうと思ったら、今と同じポイントで打率を残すのは難しい。スタンドティーや横からのティーなどで、実戦に近いポイントで打つことも、自主練習の中で補っておくように』と言っています」

ただし、あくまでも、メインテーマは出力アップ。ミートポイントのことをあまり言いすぎると、本末転倒になるので、あくまでも全体練習の中では飛距離と打球速アップに取り組む。

もうひとつは、ピッチャーとのタイミングの問題だ。冬場はスローボールを打ったり、ロングティーをしたり、緩い球を飛ばす機会が圧倒的に多くなる。そこで起こりうる弊害が、テイクバックに入るタイミングが遅くなることだ。この感覚が体に染みつくと、シーズンに入ってからの順応に時間がかかってしまう。
「冬場、バッティングケージを5カ所作るとしたら、1カ所だけ8メートルの距離から、120キロぐらいで投げるピッチャーを入れておきます。距離が短いので、体感としては140キロ近くになる。これは甲子園で浦和学院に負けてから取り入れたことで、今は1年通してやっています。狙いは、トップを早く作ること。グリップをキャッチャー方向に引いて、引き切ったところがトップ。つまり、バットを振り出す準備を早く作る。ボールを持ったピッチャーの手と、バットを持った手の距離をできるだけ長く取れるのが理想です。これは、中学生にも高校生にも言えることですが、手を引き切るのが遅い選手が多い。ボールがリリースされるときには、もう準備を終えていないと、速いピッチャーの対応は難しくなります。ただ、これは言葉で言ってもなかなかわからないことで、実際に速いボールを打っておかないと、自分で気づくことができません」

シーズンに入ってからの話になるが、準備の重要性を理解させるために、あえて好投手と対戦する機会を作り出している。ドラフト候補と呼ばれるレベルのピッチャーと対することで、「今のタイミングでは打てない」と気づかせるのだ。
「監督として、気を配っているのが練習試合の相手です。公式戦前の3月、6月、9月、10月に、トップレベルのピッチャーと戦っておく。ぼくの感覚としては、140キロぐらいであれば、準備が多少遅くても対応することはできます。でも、148キロを超えてくると、その遅さが致命的になる。そこにどれだけ早く気づけるかです」

昨年は、大船渡の佐々木朗希(ロッテ)、興南の宮城大弥(オリックス)、横浜の及川雅貴(阪神)ら、のちにドラフト上位で指名されるピッチャーと戦った。

加えて、バッティング練習を動画で撮影して、「このタイミングでは遅いよ」と視覚的に気づかせることも多い。秀光中時代から、iPad やスマホを活用して、さまざまな場面を撮影していたが、「高校に移ってからのほうが、より動画を撮るようになりました」と話す。

そこには、中学生と高校生が歩んできた道の違いがある。
「高校生は、自分なりの理論や考え方を持っています。だから、頭ごなしに言葉だけで伝えても、それまでの取り組みをなかなか変えられない。気づかせるためには、好投手との対戦や、自分の映像を客観的な視点で見ることが必要だと思っています」

そして、手を引き切るタイミングが遅れ、結果が出なくなると、たいていの選手はトップの位置が浅くなってくる。その結果、バットを振る出力は弱くなり、ボールに対する間合いも取れなくなる。
「もうこれは絶対といっていいレベルですけど、状態が悪いバッターは、トップが浅くなっています。空振りしたくないという心理が働いているのかはわかりませんが、本当に多い。でも、バッター自身はなかなかわからない。これも、映像を撮るしかありませんね。ひたすら、映像を撮ります」

深いトップを作るには、どんな練習が必要か。須江監督が、秀光中時代から大事にして
いる練習がある。


続きは本書から(書籍では写真を交えてより詳しく紹介されています)。



須江航(すえ・わたる)

1983年4月9日生まれ、埼玉県出身。仙台育英では2年秋からグラウンドマネージャーを務め、3年時には春夏連続で記録員として甲子園ベンチ入り。八戸大を卒業後、2006年に仙台育英秀光中等教育学校の野球部監督に就任。中学野球の指導者として実績を残し、2018年に母校・仙台育英の監督に。

著者:大利実(おおとし みのる)

1977年生まれ、横浜市港南区出身。港南台高(現・横浜栄高)-成蹊大。スポーツライターの事務所を経て、2003年に独立。中学軟式野球や高校野球を中心に取材・執筆活動を行っている。『野球太郎』『中学野球太郎』(ナックルボールスタジアム)、『ベースボール神奈川』(侍athlete)などで執筆。著書に『中学の部活から学ぶ わが子をグングン伸ばす方法』(大空ポケット新書)、『高校野球 神奈川を戦う監督たち』『高校野球 神奈川を戦う監督たち2 神奈川の覇権を奪え! 』(日刊スポーツ出版社)、『101年目の高校野球「いまどき世代」の力を引き出す監督たち』『激戦 神奈川高校野球 新時代を戦う監督たち』(インプレス)、『高校野球継投論』(竹書房)、『高校野球界の監督がここまで明かす! 野球技術の極意』『高校野球界の監督がここまで明かす! 打撃技術の極意』(小社刊)などがある。2月1日から『育成年代に関わるすべての人へ ~中学野球の未来を創造するオンラインサロン~』を開設し、動画配信やZOOM交流会などを企画している。https://community.camp-fire.jp/projects/view/365384

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