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【三重・海星】葛原美峰アドバイザーの「投手攻略メソッド」とは?

2021.11.5

打撃技術の向上により140キロを超えるボールでも打ち返されるようになった近年の高校野球。そこでより大事になるのがピッチャーの育成ですよね。
今回から数回にわたりスポーツライター大利実氏の書籍「○○技術の極意」シリーズから『高校野球監督がここまで明かす!投球技術の極意』の一部分を紹介します。今回登場するのは三重・海星の葛原美峰アドバイザー。「機動破壊」の生みの親による「投手攻略メソッド」とは?


葛原美峰の「投手攻略メソッド」

制約を付けてこそのフリーバッティング
速い球を打てなければ何も始まらない


──ノーステップバッティングは、普段の練習から取り入れているのでしょうか。

葛原 毎日やっています。5カ所のフリーバッティングのときに、マシンを3台(右のスライダー、左のスライダー、アームマシンからの速球)置き、もう2カ所は5メートル前からイスに座った選手がピュッとキレのあるボールを投げる。手投げのケージは2ストライク後の対応で、ノーステップ打法で打つのが約束事になっています。「フリーバッティング」と聞くと、自由に何でも打っていいと思う高校生がいますが、フリーこそ制約を付けるべきです。私が考えるフリーの意味は、「自分で想定を決められる自由さがある」。ただ、引っ張って気持ちよく打っているだけでは、実戦につながっていきません。

──たしかに納得です。左右のスライダーは毎日やるのですね。

葛原 体から逃げるスライダー、体に入ってくるスライダーの両方に対応する練習です。右バッターが苦手にしているのが、体に食い込んでくる左腕のスライダー。イメージとして伝えるのが、三塁前に転がすセーフティバントです。バットの芯を体の前に素早く出して、自分の目でボールをとらえられる距離感を作る。バッティングも一緒で、いかにバットの芯を体の前に素早く出すか。ボールを引き付けすぎると、差し込まれてしまいます。

──左バッターは、外に逃げるスライダーを苦手にしているように感じます。

葛原 苦手な高校生が多いですね。アドバイスとしては、「打ったら三塁に走りなさい」と教えています。どうしても、一塁に早く走ろうとするので体が開き、外のスライダーが遠くに見えてしまう。打ったあとは、後ろ足がホームベースに一歩踏み出すぐらい、腰をしっかりと入れてスイングする。実際にフリーバッティングでも、三塁方向に1?2歩、走らせることがあります。

──高校野球でよく耳にするのが、「速球対策」として短い距離から150キロ近いストレートを打たせる練習があります。どれほどの効果があるものですか。

葛原 「目慣れ」としての意味はあると思います。ただし、ピッチングマシンであっても、出力を上げるにつれて、コントロールミスの可能性が出てきます。150キロでデッドボールを食らうと致命的なケガにもなりかねません。私が大事にするのは、「体感速度」です。18.44メートルの3メートル手前から、120キロのストレートに設定すれば体感は140キロ、4メートル前にすれば、体感は150キロ。このような形で、距離を変えることによって体感速度を調整するようにしています。今年の冬は5メートル前に120キロ設定のマシンを置いて、体感速度160キロで打たせていました。

──高校生でも打てますか?

葛原 もちろん、いきなりは無理ですよ。私のやり方は、1・1キロのバットで140キロが打てるようになったら、900グラムのバットで150キロを打たせる。速度に慣れてきたら、今度は1・1キロで150キロ。冬はひたすらストレートだけを打ち込んで、2月の後半にはここまで持っていきます。3月頭には、900グラムで160キロ。とにかく、振り負けない力をつける。筋トレの代わりにバットを振る。暖かくなってから、変化球を入れていきます。

──重たいバットで速い球を打つには、トップからバットが遠回りしていたら打てませんね。

葛原 もう、理屈ではありません。速い球を打っていれば、スイングのぜい肉が自然に取れていく。選手によく言うのは、「速い球に詰まっていたら、バッテリーに舐められて終わりだよ。舐められたら、ケンカは負け」。ストレートを狙っているのにストレートに差し込まれていたら、勝負になりません。

──1・1キロバットの140キロからスタートして、打てない選手も対応できるようになりますか?

葛原 土台を作るための素振りがあります。1・1キロバットを使った「1分間スイング」で、80スイングが目標。それができたら、900グラムのバットで100スイング。実際にやってみるとわかりますが、腕だけのスイングでは疲れがたまって振れない。スイングのぜい肉を取るのには、おすすめの練習です。

──数を振ること、数を打つことに大きな意味があるのでしょうか。

葛原 間違いありません。特に数を打たせること。私の感覚としては、守備は1000本ノックを受けてもうまくならない選手はうまくなりませんが、バッティングは数を打てばそれだけ上達する。バッティングのほうが簡単だと思います。

──マシンを打ちすぎることで、ピッチャーとのタイミングが取れなくなるバッターもいると聞きます。

葛原 それはシーズンに入ってからやればいいことで、冬場は徹底して速い球を打ち返せる力をつける。持論としては、「速い球が打てれば、バッティングのほとんどのことは解消できる」。150キロを打てるということは、それだけのスイングスピードとパワーがあるわけで、変化球を投げられても体の近くまで持ってくることができます。バッティングの一歩目は、速い球を打てるようになること。一歩目がなければ、次のステップはありません。

──重たいバットはシーズンに入ってからも使いますか。

葛原 1・1キロを使うのは冬場だけです。シーズンに入れば、900グラムの金属バット。試合で扱うバットを使ったほうが、実戦での対応力が上がっていきます。そこは、試合がある時期とない時期で、考え方を変えています。


続きは本書から(書籍では写真を交えてより詳しく紹介されています)。



葛原美峰(くずはらよしたか)

1956年生まれ、三重県出身。東邦高校から国士舘大学に進学。卒業後は東邦高校のコーチを1年間、翌年からは杜若高校の教員として、監督を14年間務めた。以降も教員を続けながら、四日市工業の外部コーチ、群馬・健大高崎のアドバイザーを歴任。2019年3月に健大高崎を離れ、同年5月に海星高校のアドバイザーに就任。

著者:大利実(おおとしみのる)

1977年生まれ、横浜市港南区出身。港南台高(現・横浜栄高)-成蹊大。スポーツライターの事務所を経て、2003年に独立。中学軟式野球や高校野球を中心に取材・執筆活動を行っている。『野球太郎』『中学野球太郎』(ナックルボールスタジアム)、『ベースボール神奈川』(侍athlete)などで執筆。著書に『中学の部活から学ぶ わが子をグングン伸ばす方法』(大空ポケット新書)、『高校野球 神奈川を戦う監督たち』『高校野球 神奈川を戦う監督たち2 神奈川の覇権を奪え! 』(日刊スポーツ出版社)、『101年目の高校野球「いまどき世代」の力を引き出す監督たち』『激戦 神奈川高校野球 新時代を戦う監督たち』(インプレス)、『高校野球継投論』(竹書房)、『高校野球界の監督がここまで明かす! 野球技術の極意』『高校野球界の監督がここまで明かす! 打撃技術の極意』(小社刊)などがある。2月1日から『育成年代に関わるすべての人へ ~中学野球の未来を創造するオンラインサロン~』を開設し、動画配信やZOOM交流会などを企画している。https://community.camp-fire.jp/projects/view/365384


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