企画

【甲子園で戦う男たち】撮影で関わり、激闘と感動を届けるカメラマンの甲子園

2018.8.24

甲子園の情報はさまざまな人たちの手によって見る側に届けられます。なかでも一番多く目にしているのは写真でしょう。激闘と感動を届ける“カメラマン”松橋さんにお話を伺いました。


ーースポーツカメラマンを目指したきっかけを教えてください
「野球はもちろんですが、スポーツは昔から大好きで、大学で写真を学んだあとはスポーツカメラマンになろうと決めていました。選手としてはそこまでの功績は上げられませんでしたが、その時から見ていたスポーツ写真の魅力に惹かれたこともありますし、とにかくスポーツが好きだから関わって生きていきたかったというのが一番かもしれません。甲子園以外にも地方大会はもちろん、大学野球や社会人野球なども撮影していて、すべて含めると年間200試合は撮影で携わっていると思います。」

ーー甲子園での撮影はどのくらいされていますか?また1試合何枚くらい撮影しますか?
「2013年から春夏のほぼ全試合で撮影をしています。一大会で全試合を撮影するのは何人もいないかもしれません(笑)。おおまかな計算にはなりますが、1試合2500シャッターが平均なので、4試合あるときは10000シャッターくらい切っていると思います」


ーー機材などは常時どの程度持っているのですか?
「撮影中のカメラは基本的には2台で、プレー中を撮影する望遠レンズとグラウンド内で整列や入退場、円陣などを撮影する標準レンズを持ち歩いています。この2台を期間中は常にそばに置いていますね」

ーー特に夏は過酷かと思いますが、甲子園に駆り立てるのはどのようなことでしょうか?
「正直、環境としては相当過酷です。特に今年の暑さは以上ですし、そのなかで日向に1日いなければならない。もしかしたらこんな厳しい仕事をなぜやるのと言われるかもしれません(笑)。でも高校球児が炎天下の中であっても甲子園で試合がしたいと願うように、あの場でおこるさまざまな感動や激闘を撮影したいという思いだけです。甲子園には魔物が住むといいますが、それは球児だけでなく、観戦にいらっしゃる方を含めて周りの人全員にも影響をもたらしていると感じています」

ーーどのような写真を撮影することを心がけていますか?
「野球であればインパクトの瞬間を綺麗に撮影することが一番難しく、写真としても素晴らしい。高校野球であればヘッドスライディンなども絵になります。でも甲子園はすごく不思議な文化だなと感じていて、本来ならば最上位のプロを見に行くのがスポーツ観戦だと思いますが、プロはあまり見ないけれど甲子園は見るという方は僕の身近な人も含めて結構多い。ありきたりかもしれませんが、そこには感動があるからかなと。だから僕は球児たちの感情が伝わる写真を撮影したいと思ってシャッターを切っています。プレーはもちろんですが、負けたら終わりのトーナメントでいて大観衆。それを高校生のメンタリティでやっている。ある意味では究極の感情の宝庫ではないでしょうか。ファインダー越しで見ていると心が揺さぶれられている時というのはすごくわかるんです。まさに球場の臨場感ですし、一枚の写真を通して甲子園の素晴らしさというのを伝えていきたい。そして必ず出場した選手全員を撮影すると心がけています。どこかに掲載されるとかそういうことではなく、夢の舞台に立った姿を撮影しておきたいと。もしかしたらこれは球児のためではなく、自分のためなのかもしれませんが。今回の大会も最終回に代打で登場した選手がホームランを打ちました。その瞬間を撮影できたのは素直に嬉しかったですね。このようなこともあるし、全選手の撮影、すべての瞬間を撮影したいので本当はトイレ休憩やご飯の時間も惜しいと思っています(笑)」


ーー今までで記憶に残る一枚はありますか?
「一枚と言われると難しいのですが、2017年の大阪桐蔭×仙台育英の試合は鮮明に覚えています。ベースから足が離れた場面は最後のヘッドスライディングを撮影しようと一塁ベース付近にカメラを構えていました。そしたら…もちろん写真も抑えていたのですが、球場に漂う異様な空気というのが一番印象に残っています。間近で見ていたからかもしれませんが、雰囲気にのまれてなぜか自分が過呼吸になりそうだったほどです」

ーー松橋さんにとって甲子園とはどのような場所ですか?
「甲子園というのは大人も子ども関係なくフラットになれる場所だと思うんです。カメラマンの立場からすれば試合をしている球児を撮影してあげているのではなく、一緒になって一生懸命野球に向き合う。極端な例えをすれば、普段話せないような偉い方でも甲子園球場でする野球の話題であれば、一緒になって盛り上がれてしまうという感じです。甲子園には感情移入ができてしまう魅力があり、一つのことに夢中になれるからフラットになるのではないかなと。さまざまな人の心を虜にしてしまう甲子園には、いろいろな意味で魔物が住んでいるのだなと実感させられます」
(取材・写真:藤倉大輔)

プロフィール

スポーツカメラマン・松橋隆樹
スポーツ雑誌の試合などで高校野球は地方大会から追いかけ、甲子園は春夏で全試合を撮影。また大学野球、社会人野球の撮影もおこなっており、年間200試合以上足を運んでいる。


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