ギア

和気閑谷高校“障がい者用グラブプロジェクト”
すでに完成済みの2つのグラブをご紹介!

2021.11.22

岡山県立和気閑谷高校野球部の選手たちのアイデアを元に誕生した障がい者専用のグラブ。実際に使用している選手のインタビューを交え、2つの特注グラブの特徴について紹介します。


特注グラブは高校生の手によりいかにして生まれたか

和気閑谷高校野球部が2019年から取り組んでいる、障がい者専用のグラブ作成。すでに障がい者野球強豪チーム「岡山桃太郎」の2選手にグラブを贈った。第1弾は同チームのエース早嶋健太選手(26歳)に、第2弾は箕輪遥介選手(高校1年生)に渡された。

同チームは11月 6、7日と兵庫県で開催された、障がい者野球の全国大会で優勝し2連覇した。

最初のグラブは岡山桃太郎のエース早嶋健太選手のため

早嶋選手は、生まれつき左手首から先がない。そのため投球時は十字架や網目のウェブに 左手首をひっかけ、投球後は素早くグラブを右に持ち替える。しかしボールを投げる際、左手首のグラブが落ちないように気を遣うため、右腕にも力が入りすぎ痛みの原因になっていた。

2018年、もう一つのワールド・ベースボール・クラッシック(WBC)とも称される身体障がい者野球の世界大会に日本代表に出場。大会では優勝を飾り、自身もMVPに輝いた。 そのとき初めて、自分の夢が叶ったと思った早嶋選手。次の目標を考える前にまずは、痛みのない野球がしたいと思い手術を決意。術後は少しずつ痛みが消えたものの、完全にはなくならなかった。

そんな早嶋選手の悩みを解決すべく、部員たちが最も工夫を凝らしたのは、グラブにポケットを付けることと、指またの仕切りをなくして手口を広くすること。野球部全員でアイデア出しした中から、この2つの意見が採用された。

その後、岡山の野球用品店・タカギスポーツで働くグラブ職人の森川さん、早嶋さん、アイデアを出した2名の部員を交えて企画会議が行われた。

森川さん自身も初めて作るグラブ。難しいオーダーではあったが、まずは試作品を作るところからはじまった。「この時点で完成形に近いグラブはできていた」と早嶋選手。が、ポケットの位置など細かい修正を何度も繰り返した。そして3カ月の期間を経てついに、2020年3月、早嶋選手オリジナルのグラブが完成したのだった。


完成した早嶋選手のためだけの特注グラブ。

グラブの特徴
★ 背面にポケットが付いていて左手首を引っ掛けやすい
★ ポケットの耐久性を高めるために、鉄板を入れ潰れないようにした
★ 左手首を守るためポケットの内側に綿を入れた
★ グラブの着脱がスムーズになるように、指またの仕切りをなくし手口を広くした
★ 長く使うことで皮が伸びてサイズが変わるため、グラブのはめ替えに最適なサイズ感を維持できる調整ベルト機能をつけた


早嶋選手にインタビューしてみた。

—和気閑谷の部員と森川さんとのミーティングでどんな話をした?
部員たちが出してくれたアイデアをもとに色々と話しました。まず左手にひっかけているグラブが投球時に落ちないこと。投球後、右手に素早くグラブをはめられるように、指またの仕切りを広くしてもらうお願いをしました。森川さんは好き勝手に言っても「いいね」と言ってくれるんです(笑)。

—グラブの特徴やこだわりを教えてください。
こだわりはたくさんあります。まず、部員たちが案を出してくれた、背面につけたポケットと調整ベルト。ポケットは奥行きも調整でき、曲げることができる左手首をひっかけられます。ポケットの中は左手首が傷つかないように綿が入っていたり、耐久性を持たせるために、森川さんがプレートを入れてくれました。他にも右手をいれる部分を広げ、内部は人差し指から薬指の仕切りをなくしてもらいました。そうすることで、素早くグラブをはめることができます。


早嶋選手は、たとえ体に障がいがあっても「道具によって可能性は広がること、それを作ってくれる人がいることをみんなに知ってもらいたい」と願っている。

—特注グラブを初めて装着したときの気持ちは?
今までにない感覚で感動しました。身体につまり感がないというか、力まずスムーズな投球フォームで投げられました。球のコントロールも良くなりましたし、何より肩の負担が減りました。今までは肩が痛くてできなかった連投も、このグラブを使ってからはできるようになりました。次の日の疲れ方も違います。


早嶋さんがこれまで使っていたグラブ(右)と特注グラブ(左)。これまでのグラブは、左手首をひっかけるウエブの部分が広がっている(グラブが落ちないように左手首を差し込むためウエブの部分が広がってしまう)。特注グラブの左裏部には、みんなで考えた「唯一夢二」の刺繍を入れた。世界でひとつしかない夢を叶えるグラブという思いが込められている。

—全国大会で実際に使用してみてどうでしたか?
とても投げやすかったです。2年前に出場した全国大会の時とは、投球フォームが変わっていることを自分でも感じて感動しました。


PICK UP!

新着情報