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監督は、自発的に練習する選手と“一緒に学ぶ”。ラプソードで「指導スタイル」も変わる

2021.6.13

自分が投げたボールを「見える化」することで、効率的にレベルアップしたり、配球パターンの確立に生かしたりしているのが、立花学園高校(神奈川)の投手たちだ。彼らが使うのは簡易型の弾道測定器「ラプソード」。投手と捕手の間に設置し、球の回転数や変化量、軌道などが1球ごとに測定できる。大リーグや日本のプロ野球でも多くのチーム、選手が使っている。立花学園の志賀監督に導入の経緯や成果を聞いた。


「吸収力を2倍」にして強豪校を倒そう!

簡易型の弾道測定器「ラプソード」を投手の練習に取り入れる神奈川・立花学園高校。その狙いについて、志賀正啓監督(34)は次のように語る。

 「投球練習をする上で、投手が『良い球だ』と思っても、それを客観視できないことが課題でした。捕手が下級生の場合、先輩に『良くない』とも言いづらいでしょうし。ラプソードで具体的な数値が見られることで、『感覚』と『現実』を即座にすり合わせることができるようになりました」。

志賀監督は、慶大の助監督として投手陣の底上げに成功した林 卓史さん(現・朝日大保健医療学部准教授)の著書「スピンレート革命」を読み、回転数や変化量、軌道などを知ることの重要性を痛感。同書を読んだ1カ月後の2019年2月ごろ、ラプソードを購入した。

計測できるデータは多岐にわたる。志賀監督は「その投手の特性を知り、どんな投球スタイルを目指せばいいかの手がかり探しをする」ツールとして、ラプソードの数値を参考にしている。

たとえば、直球の「伸び」の指標の一つとなる回転数。130キロならば1900回転前後(1分間あたり)が「平均」だ。単にこの平均を上回ればいい、下回るとダメ、というわけではない。重要なのは「平均値から外れる」ことだという

 「平均よりも上ならば、さらに回転数を上げて高めで空振りを取れる直球を目指せばいいし、平均より下ならば、ツーシームなどの沈むボールとのコンビネーションを磨いてゴロを打たせられるように攻めようなどと提案します」。

 数値から自らの特徴を把握し、その特徴に合った投球スタイルを目指すこと。目指す方向をあいまいにしないことが大切だ

 また、ラプソードを使うようになってから、選手たちに「自ら考えて練習する力」がついたと感じるという

「数値が即座に出て、その場でフィードバックができるのが大きいです。『こう投げたらこういう数値が出た。じゃあ、このやり方ならどうなる?』という風に。反省を次の球に生かせますから」。

この「自分で考える力」を志賀監督は大切にしている。「何球投げろ、何回やりなさいと私は言いません。部員が約140人いるので、全員を毎日指導することはできない。その中で成長していかないといけないので」。

 個々の能力や中学時代の実績では東海大相模や横浜と言った、甲子園の常連校にはかなわない。だから、「『吸収力を2倍にしよう』と選手たちには話しています」。具体的な数値を元に試行錯誤し、失敗と成功を繰り返す。自発的に取り組む選手たちと「一緒に勉強する」のが、志賀監督の指導のスタイルだ。

ラプソードに限らず、選手たちにはインターネットなどでの積極的な情報収集を勧める。「ネットリテラシー教育と言いますか。高校を卒業したときに、デバイスを使えない人間でいてほしくありませんから。あるものは使った方がいい」。

選手たちはトレーニング方法や変化球の投げ方、プロテインを摂取するタイミングなど、様々な情報をデジタル空間から拾ってくる。選手同士でLINEのグループを作り、互いに集めた情報を教え合ったりもしているという。

その結果、5人の投手が球速140キロを超えた。「やらされる練習」ではなく、自発的に取り組むことで、選手たちは大きくその力を伸ばす。ラプソードの存在も、その一助にすぎない。

 
(取材・文・撮影/山口史朗)


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