自分が投げたボールを「見える化」することで、効率的にレベルアップしたり、配球パターンの確立に生かしたりしているのが、立花学園高校(神奈川)の投手たちだ。彼らが使うのは簡易型の弾道測定器「ラプソード」。投手と捕手の間に設置し、球の回転数や変化量、軌道などが1球ごとに測定できる。大リーグや日本のプロ野球でも多くのチーム、選手が使っている。立花学園の4投手に、その活用法を聞いた。
エース小林は「決め球のキレを確認」
春の大会で背番号1をつけた小林爾(みつる)は、決め球のカットボールの変化を確認するときに使う。
「横に曲がるスライダーと縦に曲がるカットボールがちゃんと投げ分けられているかを確認するんです」。
スライダーもカットボールも、右打者の外角へ逃げていく軌道。理想はカットボールのほうが球速があり、変化も縦に少し落ちる軌道だが、調子が悪いときは、スライダーの球速、軌道に近づいてしまうという。そうなると、2球種を使い分けることができなくなり、投球の幅が狭まってしまう。
「この2つの数値が似ている日は、あえてカットボールは投げない。変な感覚を身につけたくないので」と小林。週に2回ほどのペースで数値を確認しながら、試合に向けて感覚を整えていくのだという。
永島田は「回転数を上げて直球の質を高める」
最速150キロの永島田輝斗(きらと)は、直球の回転数を気にしながら見ている。 武器である速い球も、「質が悪ければ意味がない」。球をリリースするときの感覚を自分の中で変えながら、どういう感覚で投げれば回転数が上がるかを、1球ごとにチェックした。 2年生のときは2000回転(1分間あたり)だったのが、今では2400回転を超えることも。いわゆる「伸び」が増したことで、「これまで芯でとらえられていたのが、ファウルになるようになった」と手応えをつかむ。
ラプソードを使って投球練習を行う永島田。
上藪は「ピッチトンネル」を意識して「曲がり始め」を調整
背番号9で外野からの登板もある左腕の上藪慎一郎の口からは、「ピッチトンネル」という言葉が出てきた。「ピッチトンネルを通したいんです」と。
ピッチトンネルとは、ここ数年、大リーグやプロ野球でも浸透してきた考え方だ。
投手の投げたボールの球種やコースを、打者が判別できるのは、ホームベースから約7メートルの地点までだと言われている。つまり、その地点を通過した後の変化には対応できない。
上藪は最速135キロと速くないが、カーブ、カットボール、チェンジアップといった多彩な球種を、すべてピッチトンネルを通すことで打たれにくくしている。簡単に言うと、「曲がり始め」を遅くするのだ。これもラプソードを使って見ることができる。
映像解析も取り入れ「3球種の投げ分け」を確立した東田
右横手投げの東田優輝は、120キロ前後のスライダー、120キロ台後半のカットボール、その中間の球速のスラッターを投げ分ける。
ラプソードに加え、スマートフォンのカメラでリリース時のスロー映像を撮影し、球種ごとに手首の角度がどう違うかや、球が指先からどう離れるかを確認した。
「感覚」だけに頼ると、同じ方向に変化するこの3球種を明確に投げ分けるのは難しい。「ラプソードとスロー映像を使うことで、3球種の投げ分けができるようになりました」と効果を実感する。
4投手に共通して言うのは、「ラプソードを使うことで、自分の状態の変化に、いち早く気づけるようになった」ということ。 絶対的な「数値」でフィードバックすることにより、あいまいではあるが投手にとって大切な「感覚」も磨くことができる。「数値」と「感覚」のすり合わせによって、立花学園の投手陣は初の甲子園出場を目指している。
(取材・文・撮影/山口史朗)
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