企画

【脱・流れ論】野球の「流れ」を再考する(最終回)

2020.6.18

「流れ」についてあれこれ書いてきたこの記事も、今回が最後になります。まずは、これまでの内容を簡単に振り返ってみましょう。
第1回は「流れ」の定義や考え方について書きました。この記事での「流れ」の定義を示したあと、「流れ」を「メンタル上の流れ」と「結果上の流れ」の2つに分けて考えることを提案しました。

第2回は「流れ」の存在を検証した研究を紹介しました。「四球はヒットに比べて流れを悪くする」「ファインプレーは流れを良くする」などのよく聞く通説が、実際のデータでは必ずしも支持されないことなどを示しました。その上で、「流れ」が存在するかどうかは、現段階では結論をくだすことができず、まずはフェアな姿勢で「流れ」を考えていくことが大切だということを書きました。

第3回はデータを使った検証に対してよくある反論と、その回答について書いていきました。特定の試合を挙げたり、「〇〇選手や△△監督が言っている」といった主張をしたりしても、それは「流れ」が存在する証拠にはならないことなどを示しました。さらに、「流れ」でなんでもかんでも説明できてしまうと、もはや「流れ」はオカルトっぽい存在になり、現代野球とは相容れないものになってしまう可能性についても書きました。

実のところ、これまでの内容は「流れは存在するのか?」に関する話が中心でした。「流れ」をしっかり定義することも、データを使って客観的に検証することも、「流れ」をフェアな姿勢で考えるということも、すべて「流れは存在するのか?」を問うために重要なポイントです。

しかし、「流れ」というものは考えれば考えるほど面白く、そして奥が深い存在です。そのため、ただ「流れは存在するのか?」を問うだけでは、何かもったいない気がしますし、「流れ」という存在の理解も進まないのではないかと思います。

そこで最終回では、「流れは存在するのか?」という問いを超えて、「流れ」について今後何を考え、そしてどのように向き合っていけばよいのかについて、書いていきたいと思います。

「流れとは何か?」を深く考えることの意味

第1回の記事で、しっかりとした「流れ」の定義が必要であると書きました。しかし、わざわざ定義なんかしなくても、私たちは普段、「流れ」という言葉を何の問題もなく使えています。「うちのチームに流れが来ている」と言って、「そこでの流れはどういう意味で使ってる?」「私の考える意味では、まだ相手チームに流れがあるんだけど」なんて返されることはまずないでしょう。つまり、細かい部分はさておき、多くの人の間で「流れとはこういうもの」という、なんとなくの共通したイメージがあるということです。

そうなると、別に「流れ」の定義なんかいらないし、「流れ」についてあれこれ考える必要もなさそうな気がします。しかし、野球において「流れ」は重要であると考えるのであれば、そういうわけにもいかなくなります。その理由を、ボールの「ノビ」という表現を例に考えてみましょう。

「流れ」と同じく「ノビ」という言葉も、なんとなくのイメージが共有されている言葉です。「ノビのあるストレート」と言われれば、感覚的にはどういう球なのかがわかります。さて、ここである投手が、「ノビ」のある球を投げたいと思ったとしましょう。このとき、何を意識して、どういう練習をすればよいのでしょうか?選手に対して、どういう指導をすればよいのでしょうか?「ノビ」という表現を使っていると、具体的な答えは出てきません。なぜなら、「ノビ」という言葉がとても感覚的なものであり、実際のところ「ノビ」とは何なのかということが、全くわからないからです。

最近では、球の回転数や回転軸が、「ノビ」を生み出すために重要であることがわかってきました(詳しくはBaseball Geeksの記事、「“回転数多い=ノビのある球”ではない? データから迫る「ノビ」の正体」をご覧ください)。それによって「回転軸を地面に垂直に近づけながら、回転数の多い球を投げるにはどうしたらよいか」という、より具体的な問い、そして目標を立てられるようになりました。つまり、「ノビ」の正体がわかったことで、「ノビ」のある球を投げるために必要なことが、これまでよりも具体的な形でわかるようになったのです。

話を「流れ」に戻しましょう。「流れ」も「ノビ」と同じように、とても感覚的な言葉です。普段なにげなく使っていますが、いざその意味や正体を問われると、簡単には答えられません。しかも、人によって答えもバラバラです。そのため、「試合の流れを読めるようになれ」といった指導や、「相手の流れに飲まれないようにしよう」といった作戦は、まさに“言うは易く行うは難し”です。なぜなら、「流れ」の正体がよくわからない以上、それができるようになるためにはどうすればよいのか、具体的には何もわからないからです。「経験を積めばわかる」という意見もあるかもしれませんが、「ノビ」の話と比べると、なんとも根拠に乏しいような気がします。

ここで、仮に「流れ」を「試合状況や展開によるメンタルの変化によって、その後のプレーや試合の結果に影響が出ること」と定義するとしましょう(第1回の記事参照)。すると、重要なのはメンタルの部分だということがわかり、「流れ」という言葉を使うよりも、具体的な指導や作戦につなげることができるようになります。たとえば「相手の流れに飲まれないようにしよう」は、「ピンチの場面では動揺しがちだから、平常心を保つような工夫をしよう」などのようになると思います。

繰り返しになりますが、「流れ」に対する考え方は人それぞれで、上のメンタルの例が必ずしも正しいわけではありません。それでも、「流れ」は試合を左右する重要な存在であり、「流れ」にかかわる力を鍛えていきたいのであれば、「流れ」とは具体的にどういうものなのかということを、深く考え続けていく必要があるでしょう。何も考えずに「流れ」と言っているだけでは、もはや何も言っていないのと同じです。


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