企画

【脱・流れ論】野球の「流れ」を再考する(最終回)

2020.6.18

「流れ」の影響はどれくらい?

冒頭にも書いたように、この記事は「流れは存在するのか?」という話が中心でした。しかし、もし「流れ」というものが存在して、実際にプレーや結果に影響を与えているのであれば、その影響の大きさがどれくらいなのかということを考える必要があるでしょう。

たとえば、攻撃チームが「流れ」に乗っているとき、打者の打率が上がることがわかったとします。このとき、同じ「打率が上がる」であっても、平均して1割(10%)上がるのか、それとも1厘(0.1%)上がるのかによって、大きな違いがあります。1割も上がるのであれば、まさに試合を左右するとても重要な存在だと言えますし、1厘しか上がらないのであれば、もはや無視してしまって、もっと他のことを考えた方が良さそうです。

「流れ」の存在やその重要性についてはよく議論になりますが、実際のプレーや結果にどれくらいの影響があるのかということは、あまり話題に上りません。もちろん、試合の状況や選手の能力などによっても変わってくると思いますが、ある程度でも影響の大きさが把握できるようになれば、試合中の作戦を立てる上でも役に立つのではないでしょうか。

「メンタル上の流れ」に目を向ける

この記事では、選手の成績や試合の勝敗にかかわるという理由から、主に「結果上の流れ」の方に注目してきました。一方で、「メンタル上の流れ」はどうでもいいのかというと、そんなことはありません。現に、多くの選手が「流れ」の存在を信じ、ときに「流れ」に乗ったり、「流れ」に飲まれたりといった感覚を経験しています。これ自体はまぎれもない事実です。

客観的なデータはとても価値のある情報を与えてくれますが、それは実際にプレーしている選手たちに受け入れられて、はじめて意味を成すものです。選手たちが主観的に何を感じ、何を経験しているかを無視して、一方的に情報を押し付けてしまうと、それが受け入れられなかったり、反発を招いてしまったりします。そうならないためにも、いかに選手の主観に寄り添いながら、客観的なデータに基づく情報を伝えていくかが、重要となるでしょう。

また、試合中に「流れ」を感じたとき、どのような感情が沸き起こり、どのようなことを考えるのかといった、選手の主観的な経験は、それ自体がとても興味深いものです。「結果上の流れ」のように数値化して考えることはできないかもしれませんが、いろいろな選手の語りなどを参考にしながら、「メンタル上の流れ」を追究していく試みがあってもいいのかもしれません。


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