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【準硬式】群雄割拠な東都リーグの新勢力 #6成蹊大学(後編)

2022.3.29

ちょっとマイナーな「大学準硬式野球」の魅力を、実際に準硬式に携わる大学生が紹介する本連載。最終回の第6回目は東都大学準硬式連盟に所属し、2021年の秋リーグで3部昇格を決め頭角を現した成蹊大学。準硬式野球屈指の強豪校である元中京大学準硬式野球部で当時選手兼主務を務めていた、現役高校野球監督である成蹊高校の進藤友介監督にもお話を伺った。関東連盟の学生委員である山田力也(青山学院大)くんがリポートする。


高校野球監督が感じる準硬式の魅力とは?

成蹊高校の野球部を率いる進藤友介監督は、成蹊高校から中京大学へと進学し準硬式野球をプレーされた経歴を持つ。卒業後は筑波大大学院を経て、母校成蹊中学・高校の非常勤講師になり高校野球部コーチとして活躍。一時、青山学院中等部で5年間教鞭をとったが、2018年から成蹊中学・高校の保健体育教諭となり同年6月、高校野球部監督に就任している。

私ごとであるが進藤氏は筆者が高校時代、成蹊高校野球部で指導を受けた恩師である。現在も野球に携わるきっかけを与えていただき、準硬式野球に興味を持ったのも進藤監督が準硬式野球を経験されていることを知ったからだった。

進藤監督は準硬式野球をやっている人で知らない人はいないほどの名門、中京大学で準硬式野球を経験されている。教員としてご活躍する今、大学時代を振り返って準硬式野球の魅力や現在に通ずる経験を伺った。

準硬式野球の魅力は“多様性”である

進藤監督が準硬式野球の魅力として一番に挙げるのは多様性である。門戸が広いため、選手層がバラエティー豊かなのだ。

「準硬式野球には、経歴やモチベーションや将来の進路も何もかもが違う様々な選手がやってくるという特徴があります。しかし共通することは皆野球が好きであるということ。本気で楽しみたいという選手が多くいました。大学で本気で野球をやりたいけれども実力面で不安があるという選手も安心して打ち込むことができますし、バットも金属のままですので、高校野球の延長でできます。良い意味で敷居が低いのかもしれません」。

大学硬式野球には高い志が必要と考える高校生が多いかもしれないが、準硬式は必ずしもそうとは限らない。自分とは異なる野球への関わり方を知り面白く、準硬式野球の懐の深さを感じたという。


成蹊高校野球部で熱心に指導する進藤友介監督。

勉強やアルバイトと両立できる

進藤監督は、大学では自分もプレーヤーとして活動しながら、高校野球の指導者への道を進みたいという希望があった。そこで選んだのが中京大学の準硬式野球である。

当時の中京大学準硬式野球部は練習時間が午前6時から8時のみで、1年次には午前4時に起きることもあったそうだ。しかしこの環境が進藤監督の“夢”には適した環境だった。

「大学の授業が終わると自主練だけだったので、教員試験に向けた勉強と部活の両立がしやすい環境でした。アルバイトもでき、自由に時間を使うことが出来ました。周りに指導者志望の選手もいたために良い刺激にもなりました」。

考えて野球をすることの大切さを学んだ

中京大学準硬式野球部という強豪校だったため、甲子園を経験した選手も多く、監督自身がそれまで思っていた“当たり前”が壊される、非常に重要な経験をしたという。同時に、考えて野球をすることも学んだ。

「強豪校出身の選手の練習をそのまま真似してもこなせないことがありました。そこで自分のレベルや体に合ったものにアレンジしていっていたのです。この時の体験は、指導者になった今、選手のレベルに応じたアドバイスをする際に大変役立っていると思います」。

実際、筆者の高校時代も進藤監督は選手にトレーニングメニューの考案を任せるなど、「考えるきっかけ」を与えるようなアドバイスをしていた。特に成蹊高校は練習時間が短く自主練習が鍵を握っているため、進藤監督が中京大学準硬式野球部で学んだことは成蹊高校が強くなるうえで必要不可欠な要素であったのだ。


進藤監督は本記事の筆者である山田力也の恩師でもある。

進藤監督は準硬式野球を「出会いの場」と表現した。連盟の活動に携わるなかで様々な人と出会い、野球を学んできたという。大学で出会った仲間や経験は今でも進藤監督の中で息づいている。

筆者は進藤監督の下、自身で考えて行動する“準硬イズム”を教えてもらっていたのかもしれない。

高校野球を通じて何を得るかは人それぞれである。しかし批判的な視点を持ち、目標に対する施策を講ずる力を身に着けることは一生の宝になる。

筆者は進藤監督から沢山の宝を授かった。準硬式野球との出会いもその宝の一つである。成蹊高校で活躍している球児だけでなく全国の高校球児に沢山の宝を身に着けていただきたい。そしてその宝を大学準硬式野球で磨き上げてほしいというのが筆者の切なる願いである。

さて、今回取材をしてきた成蹊大学の“成蹊”という校名は「桃李不言下自成蹊(「桃李ものいはざれども、下おのづから蹊を成す。」)」ということわざに由来する。

桃や李(すもも)は、ものを言うわけではないが、美しい花を咲かせ、果実を実らせるため、自然と人が集まり、そこに蹊(こみち)ができる。桃や李は人徳のある人の比喩であり、優れた人格を備えた人のまわりには、その人を慕って自然と人が集まってくる、という意味だ。

母校の教えを大切に、今後もハイブリッドな準硬式野球の魅力をプレーヤーではない人にまで広げ、自然と人が集まり、蹊を成すことが出来るよう精進していきたい。

“準”という言葉により控えめな印象を与えてしまうことも多いが、準硬式野球は大変魅力的なのだ。少なくとも私は“JUNKOが好きだ”。

今回でこの連載は最終回である。

この連載を通して、少しでも準硬式野球に興味を持っていただけたら、ぜひ球場に足を運んでみて欲しい。きっと準硬式野球の魅力が伝わるはずだ。

また、ぜひ過去の記事もご覧いただきたい。
これまで取材にご協力いただいた準硬式野球部の皆様、本当にありがとうございました。

(写真・文/山田力也)


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