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【準硬式】群雄割拠な東都リーグの新勢力 #6成蹊大学(前編)

2022.3.28

ちょっとマイナーな「大学準硬式野球」の魅力を、実際に準硬式に携わる大学生が紹介する本連載。最終回の第6回目は東都大学準硬式連盟に所属し、2021年の秋リーグで3部昇格を決め頭角を現した成蹊大学。快進撃の秘訣を、成蹊高校卒で関東連盟の学生委員である山田力也(青山学院大)くんがリポートする。


準硬式野球が変えた3選手の野球ストーリー

準硬式野球で高校野球の“リベンジ”を果たす(河合功治、石田大樹)

成蹊大学準硬式野球部の魅力は、3人の選手の野球ストーリーを紹介することでお届けしよう。最初は、2021年秋リーグ最優秀投手で3部昇格に大きく貢献した河合功治(3年・成蹊)である。

実は河合は、筆者の高校時代の先輩である。正直野球を大学まで続けるようなキャラクターではなかったのだが、今では高校時代以上の意識で野球と向き合っている。河合の心境変化の理由と、どのような気持ちで準硬式野球に取り組んでいるのか話を伺った。

河合は2021年の秋リーグに最優秀投手を獲得、チームも3部昇格を決めた。さぞや喜んでいることだろう、そう思っていた。

しかし、河合の目はすでに関東選手権と2022年の春リーグに向いていた。

「この冬にウエイトトレーニングと増量を始めました。ハードルを使ったメニューや成蹊高校時代の同期に茨城アストロプラネッツでプレー予定の仲間がいて、プライオボールという道具を教えてもらったんです」。


高校野球に悔いがあるからこそ準硬式で開花した河合功治。

取材で再会した河合は、もはや筆者の知っている河合功治ではなかった。大学4年生で学生野球最後の年であるプレッシャーに突き動かされている。

河合は自身の高校時代にコンプレックスがある。エースを後輩に取られ、勉強もあまり真面目に取り組むことが出来なかった。

「高校時代の自分に声をかけるとしたら“もっと自分で考えて野球にも取り組め”と言いたいです。当時の自分に言っても意味は通じないでしょうけど」。

大学入学後、河合は自由に楽しく野球がしたくて準硬式野球を選択した。しかし、準硬式野球の環境が河合の心に火をつけた。

「楽しみながら準硬式野球に取り組んでいるうちに、一定の結果が出るようになりました。結果が出ることを実感すると“もっとやれば、もっと高みにたどり着けるのではないか”というマインドに変わっていったのです。高校野球で完全燃焼した人は、準硬式に入っても高校以上の努力をするのは難しいと思います。ですが、私の場合はそうではなかった。だから今になっても自分の限界がどんどん更新されていくことをモチベーションに頑張ることが出来たんです」。

また河合は準硬式野球の環境面も評価する。

「成蹊大学準硬式野球部には指導者がいないので当然自主性が求められます。自分で考えてやらないといけない環境になると、自分で調べて効果的な練習ができるようになります。高校時代は正直学校間での練習時間に格差がありすぎて、中々モチベーションが上がりませんでした。しかし、準硬式野球は練習時間が限られている大学がほとんどです。準硬式野球では少しの頑張りが確実な差として顕在化します。だからこそ優勝をはじめとする目標が実現可能なものとしてあるので頑張れます」。

河合の意欲は留まるところを知らない。

「140㎞/hを出して学生野球を終えたいですし、関東選手権で強いチームを倒して成蹊の名を上げたいという気持ちもあります。2部昇格も果たしたいと思っています」。

河合は準硬式野球を“リベンジする場”とした。高校時代に自身の納得する成長ができなかったという後悔の気持ちを準硬式野球でリベンジしている最中なのだという。

続いて紹介するのは、石田大樹(2年・成蹊)である。

石田はもともと高校野球での未練を果たしたい、指導者がいない新しい形での野球がしたいと準硬式野球の門を叩いた。


大学準硬式野球で改めて野球の純粋な楽しさを満喫している石田大樹。

「基本的に純粋に野球を楽しめる場所として選択しました。高校ほど厳しくないし人数も少ないのでアットホームな感じを求めて準硬式野球でプレーしています」。

成蹊高校野球部はそこまで厳しくなかったと思うが、石田は純粋な楽しさを一番にし、大学の敷地内にグラウンドがある恵まれた環境の中で野球を楽しんでいる。

大好きな野球に「大学デビュー」で挑戦する(関根秀一)

成蹊高校時代、バスケットボール部として活躍していた関根秀一(2年・成蹊)は筆者の同級生だ。2021年の関東選手権の際、成蹊大学のベンチを見たときに関根を発見して非常に驚いたことを今でも覚えている。

関根は高校時代から野球が大好きで、一緒にプロ野球観戦したこともあった。そんな関根は大学で選択した準硬式野球に非常に満足しているという。

「もともと野球は見るのもやるのも好きで知識もある程度あったので、準硬式野球を経験者の中に混じってプレーするのは、辛いという気持ちより、新鮮で楽しい気持ちが強いです。失うものもないし、貪欲でいることが出来ます。

実際に準硬式野球部に入ってみて、見える景色は新鮮だ。見る側からプレーする側になって初めて気づいたことがたくさんある。


高校時代はバスケ部。大学で野球に初挑戦した関根秀一。

「準硬式といえどもやはり野球部、礼儀や協調性は他の部活より大切にしていると感じました。時間はみんなきっちり守りますし、些細なことですがグラウンドに出入りする時に礼をしたり、相手校の人を迎える時と送る時に挨拶したり、ノック打ってくれた人などに感謝を述べたりします。そんなところに、礼儀を重んじる野球部らしさを感じます。あとは、ポジションへの偏見があったのですが、ファーストや外野も楽じゃないんだと痛感しました。プロ野球を見ていると、ベテランや守備に難がある選手がファーストや外野に回されがちなので、正直楽だと思っていたんです。しかし、いざ自分が入ってみるとファーストは内野の連携があり捕球にプレッシャーがかかるし、外野はゴロもフライも予測するのが難しくてなかなか上手く捕れません」。

準硬式野球での目標はあくまで自分が満足すること。試合に出ることは目標ではなく、上達する過程で出場できれば良いと考えているという。

「やってみたい」という気持ちがあれば、憧れのまま終わらせずに軽い気持ちで大学デビューできるのは準硬式野球の魅力だ。硬式野球だとこうはいかないだろう。関根自身も準硬式野球の懐の深さを感じている。

「初心者に対する理解はあると感じます。ミスについて咎められることはあまりありませんし、上手く行った時は褒め、上達するように指導してくれて挑戦させてくれます」。


準硬式野球は初心者であっても女性であっても体が自由に動かない方でも喜んで一緒に野球をしたいと考えている。現に女子選手の勧誘に向けて関東地区大学準硬式野球連盟は活動を始めている。寛容さを持つことで準硬式野球の裾野は面白く、興味深い形で広がっていく。

筆者は大学受験を経て、別の大学で準硬式野球をプレーしているため、高校時代とはポジションを変え、新たな関わり方をしている。でも、母校の旧友たちと共に準硬式野球というフィールドで野球をすることができてうれしく思う。

準硬式野球はすべての選手の挑戦を応援してくれる野球である。

現状維持は退歩と同じであり、我々は前に進んでいかなくてはならない。同じ野球でも今までとは違う関わり方や挑戦をしてみてほしい。


(写真・文/山田力也)


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