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「高校野球脳を鍛える 実戦プレー問題集」にチャレンジ!(上級編:問題1)

2020.6.17

昨年6月に発売されたこの本では、実際にあったプレーを挙げながら、考え方、守備位置、カバーリング、ルール等を初級、中級、上級に分けられた全120問を徹底解説しています。今回は上級編の中から、無死一塁での「ヒッティング」に関する出題です!


上級編|問題1

問題

普段は無死一塁でほぼ送りバントのサインを出す監督が、「ヒッティング」のサインを出しました。
このとき、打者が心がけるべきことは何でしょう?


解答・解説

智弁和歌山の高嶋仁監督はこう言っていました。
「ノーアウト一塁で『打て』のサインが出た。どうするかと10人に訊いたら、10人とも『右方向へ打ってランナーを進めようというのが頭にある』と言うんですね。僕は違います。『ノーアウト一塁で”打て”のサインを出すということは、点を取ってほしいんや。右側に打ってランナーを進めるなら、俺はバントで進める』と」

高嶋元監督は無死一塁の場合、基本的には送りバントを選択します。その監督が、あえていつもと違うサインを出すのには理由があるわけです。もちろん、「打て」のサインだからといって、やみくもに打てばいいわけではありません。無死一塁から点を取ろうと思えば、長打が必要。どこに打てば長打になるか考えて打たなければいけないのです。
「点を取ろうと思ったら7か所ある。そこを狙って打ちなさいと。三遊間とかセンター前に打って点が入るのかということです」

7か所とは、レフト線、ライト線、レフトオーバー、センターオーバー、ライトオーバー、左中間、右中間。これに本塁打を入れると8つになります。そこに打てる球を狙い、そこに打てるようなスイングをする。それが、この場面で高嶋元監督が求めていることです。それを理解していないと、無理やり右方向を狙った窮屈なバッティングになり、ダブルプレーになりかねません。監督の意図がわからないと、「やってほしいこと」と「やるべきこと」が合わない。必然的によい結果はうまれにくいことになります。

サインが出たときに大事なのは、「なぜ、監督がこのサインを出したのか?」と考えることです。普段と違うサインが出たなら、なおさらです。監督の思い、サインの意図を理解するからこそ、作戦は決まります。逆にいえば、どんなに監督が相手の意表を突くサインを出したとしても、選手に意図が伝わらなければ、うまくいきません。采配がうまくいくかどうかは、監督と選手の気持ちが合致するか否かにかかっているのです。

ただ「エンドランのサインが出たから振った」というのではなく、「なぜ、このサインなのか。この場面で求められていること、やるべきことは何なのか」を考えることが必要なのです。

そのためには、普段から監督とコミュニケーションをとることが重要になります。ミーティングなどで監督の考え方を理解するのはもちろん、会話や野球ノートなどを通じて監督の野球観と自分の価値観を合わせていく。自分と似たタイプの選手に対して、どの場面でどのようなサインを出すのかを観察するのも参考になるでしょう。

理想的なのは、サインが出る前に選手が「おそらくこのサインが出るだろう」と予測し、「やっぱり、そうですよね」と予測通りのサインが出ること。そうなるように訓練してください。これができるようになれば作戦が決まる確率は上がり、監督と選手の信頼関係も生まれ、チームも強くなります。

ただサイン通りに動けばいいのではなく、(1)なぜこのサインなのか(2)何を求めているのかを理解した上で、ATKを考える。ATKとは「最」の後に続く文字の頭文字で、A=最”悪”、T=最”低”限、K=最”高”です。ATKを考える習慣をつけるようにしてください。


『高校野球脳を鍛える 実戦プレー問題集』(田尻賢誉/竹書房)

昨年6月に発売されたこの本では、実際にあったプレーを挙げながら、考え方、守備位置、カバーリング、ルール等を初級、中級、上級に分けられた全120問を徹底解説しています。





著者

田尻賢誉(たじり・まさたか)
1975年兵庫県生。学習院大学卒。ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球をはじめ、徹底した野球の現場取材に定評があるほか、指導者、中高生、父兄への講演活動も行っている。『機動破壊』、『機動破壊の秘策』、『機動破壊の解析力』、『高校野球は親が9割』、『超強豪校』、『激戦区を勝ち抜く方法』(すべて小社)など著書多数。

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