学校・チーム

【敦賀】センバツ落選から立ち上がり、「夢」観客試合で思い出を作る

2020.6.22

主体性、自律力が問われる機会となった今回のコロナ禍。昨秋の北信越大会8強で21世紀枠候補にもなった古豪・福井県立敦賀高校は休校中に心の成長を遂げたチームの一つです。「自分たちは一生『コロナ世代』と呼ばれると思う。この経験は現在高校3年生にしかわからない価値観がある」と高木風真主将が言い切ったという話も含めて、吉長珠輝監督(34)に電話でお話しを伺いました。


コロナショックでスポーツイベントが次々と中止になる中、日本トップリーグ連携機構代表理事・川淵三郎会長が「#無観客試合を変えよう」というハッシュタグを発信した。敦賀野球部はこのテーマについてミーティングをし、「夢観客試合」という言葉を思いついた。「『無』ではない。『夢』がつまった試合にしよう」と。この様子を見ていた吉長監督は「子どもたちの発想力というのはおそるべし、ですね」と感心した。

甲子園中止に「悔しいなら声を上げろ!」

 福井県では7月18日から独自大会「福井県高等学校野球大会」が行われる。敦賀の選手たちも大会に向け、6月1日から制限付きで部活を再開。6月20日には紅白戦もできるようになった。

現チームは昨秋の県大会で準優勝。21年ぶりの北信越大会出場を果たした。長野日大に4-1で勝利し、ベスト8入り。春4回、夏17回の甲子園出場を誇る古豪の躍動に期待の声が集まった。昨年12月には21世紀枠の全国9校に選ばれた。手作りのグラウンドで練習工夫を行っていることや、勝利至上主義を真正面から考え直す姿勢が評価された結果だった。

敦賀は昨秋21年ぶりの北信越大会で8強入りを果たし、古豪復活を予感させた

センバツ出場の朗報は届かなかったが、夏の甲子園を目指し努力を積んだ冬。見守ってきた吉長監督は複雑な思いも吐露する。
「選手たちはセンバツ落選から心折れず、本当によく頑張ってきました。それだけに、夏の甲子園が中止になったときは、言葉に表せないくらい悲しかったです。でも前を向かないといけない。選手たちには『悔しいなら、自分たちの声を上げろ』と翌日のミーティングで(SNSを通して)話をしました」。

数日後、選手たちから「代替大会があった場合は参加したい」との声が上がった。
その「声」には代替大会への率直な要望が書かれていた。

・選手登録は25人に増やしてほしい。
・人数の多いチームが2チームに分けてほしい。
・電車、バス移動は禁止に。駐車場が混まないようルールを決めてほしい。
・無観客試合は嫌だ。家族なども呼べるよう、観客制限試合にしてほしい。
・プロ、大学のスカウトの人は入れてほしい。

「僕たちは一生コロナ世代と呼ばれ続ける」

 全学年、女子マネージャーも参加しての、代替大会“討論会”。吉長監督は「なるほど。そんな考えもあるのかと驚きました。選手たちが次々と豊富なアイディアを出すのを見て、自粛期間の間、大人たちは何をしていたんだろうとさえ思いました」と自分を振り返ったと言う。
4人制キャプテンの一人、高木風真主将(3年)は、吉長監督にこんなメールを送っている。

「自分たちは『コロナ世代』と一生呼ばれ続けると思います。ただ、自信があります。胸を張れます。この経験は現在高校三年生にしかわからない価値観があります。(略)吉長先生を甲子園に連れて行きたかった。本当に。お父さん、お母さん、保護者の方を甲子園に連れて行きたかった。最後まで感謝しきりになってしまい申し訳ないと思いました。
ただ、この先なにがあろうと負けない自信があります。この世界を変えていけるのは自分たち一人一人の力だと感じると、楽しみで仕方ありません。権力や立場上どうしようも出来ないことが多々あります。ただ関係ありません。もう前を向いて、立派に生きていきます!」。

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吉長監督の目頭が熱くなった。ミーティングで「コロナ世代を悲しい世代にするのか、前向きな世代にするのか、どっちなんだ?」と選手に問いかけたあとの返信だったからだ。
井坂翼主将(3年)は「(代替大会は)仲間との思い出を作りたい。全員で勝ち抜きたいと思う」と話し、勝つことが仲間との思い出につながるということを皆に伝えた。
吉長監督は「この世代は我慢強さがある、尊敬されるべき世代になってほしい。3カ月も自粛を我慢して、今も制限が続く中で部活を楽しんでいる。この経験は社会に出たときにきっと役に立つはずだから」と話した。


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