企画

【脱・流れ論】野球の「流れ」を再考する(2)

2020.4.13

「流れ」の存在を支持するデータは?

ここまでは、「流れ」の存在を支持しないデータを見てきました。一方で、「流れ」の存在を支持するデータもあります。

『野球人の錯覚』では、「4番打者が打つと流れが良くなる」という点についても検証を行っています。最近は「2番打者最強説」なんて話もありますが、それでもまだ、4番打者の存在は特別で、チームでも信頼のおける打者が担う場合が多いでしょう。そんな4番打者が打てばチームに「流れ」が来る、というのも直感的にうなずけます。
もし4番打者が打つことで「流れ」が良くなるのであれば、次の攻撃でも点が入りやすくなるはずです。4番打者が打点をあげたイニングの次の攻撃を見てみると、得点の確率・平均ともに通常よりも高いことがわかりました。これは「4番打者が打つと流れが良くなる」ことを支持する結果です。

*4番打者打点後の攻撃の得点確率と得点平均 (2005年プロ野球)


また、昨年の野球科学研究会第7回大会にて、米子東高校の野球部員たちが「高校野球に流れは存在するのか」というテーマで発表をしていました。彼らは、部に現存する公式戦のデータを使い、試合終盤(7~9回)の先頭打者のヒット・四死球・エラーのそれぞれで、得点の確率・平均が異なるかを検証しています。結果は、エラーはヒットよりも失点の確率・平均ともに高いというものでした。これも「エラーは流れを悪くする」ことを支持する結果と言えるでしょう(ちなみに筆者のデータでは、エラーはヒットに比べて失点の確率・平均ともに「低い」という結果となり、このあたりの違いも興味深いところです)。

フェアな姿勢で「流れ」の存在を考える

これまでに行われてきた「流れ」の存在に関する研究を紹介してきました。「流れ」の存在を支持しない結果が多いことから、思った以上に「流れ」の存在が絶対的なものではないことを、実感していただけたかと思います。

しかし、この記事では「流れは存在しない」ということを主張したいのではありません。そもそも、「流れ」の存在を検証した研究が少ないため、今の段階で何か結論を下すのは、早すぎると言えるでしょう。この記事で主張したいのは、まずはフェアな姿勢で「流れ」の存在を考えてみましょう、ということです。

もはや「流れ」の存在は、多くの野球人にとって、疑う余地すらないものなのかもしれません。実際、この手の話をすると、「そんなデータには何の意味もない」「野球を知らないやつがエラそうに言うな」などのように、頭ごなしに否定をする(そして怒り出す)人も少なくありません。

しかし、はたしてこのような姿勢は、「流れ」という現象の理解、さらには野球というスポーツに対する見方、考え方の向上につながるのでしょうか?おそらくつながらないでしょう。

野球に限らず、スポーツは日々進化していきます。かつての「水を飲んではいけない」という指導のように、それまでの常識が突如、非常識に変わることも珍しくありません。野球もセイバーメトリクスの流行により、次々と新しい発見が生まれています。その中で、「流れ」の存在だけが旧態依然としたまま、疑いようもなく正しいなんてことがあるでしょうか?そんなことはないでしょう。今回の記事で示したように、少なくとも疑う余地くらいはあるはずです。

記事のタイトルの「脱・流れ論」は、いつまでも変わらない「流れ論」から「脱」しよう、という意味が込められています。少しでも良いプレーをしたい、少しでも勝つ可能性を高めたいという方は、ぜひ一度、フェアな姿勢で「流れ」の存在を考え、そして積極的に疑ってみてください。新しい野球の見方、考え方に気づけるかもしれません。

今回紹介したデータは、「流れ」の存在を信じる人にとっては、納得いかない点も多く、いろいろな反論もあるかと思います。そこで次回は、よくある反論とそれに対する回答、さらには「流れ」という言葉を使うときにしばしば起きてしまう、やっかいな問題について書いていきたいと思います。

(鹿児島大学准教授/榊原良太)

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