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野球に“流れ”は本当にあるのか? 大学准教授が研究!?

2020.1.9

11月30日、12月1日に法政大学多摩キャンパスで開催された、野球に関する広範な研究を専門とする研究者と、プロ、社会人、大学、高校などの野球指導者、トレーナー、企業の研究者などによる研究会「日本野球科学研究会第7回大会」。この研究会で「ノーアウトからの四死球・エラーは本当に“流れ’'を悪くするのか?」という興味深い研究発表が行われていたので紹介します。


「ノーアウトからの四死球・エラーは本当に“流れ’'を悪くするのか?」このテーマを研究したのは鹿児島大学准教授の榊原良太さんだ。そもそも榊原さんはなぜこのテーマを研究してみようと思ったのでしょうか?
 
「プロ野球の試合を観ていると、実況や解説者の方が“ノーアウトからの四球はヒットよりも点につながりやすい”とよくお話しされています。理由は、四球はヒットに比べて“流れ”を悪くするから、です。

私自身も野球をプレーしていたときに、同様のことをしばしば耳にしました。最初は特に疑問にも思っていませんでしたが、ヒットも四球も結果は同じノーアウト1塁なのに、本当に点の入りやすさに違いなんてあるのだろうかと、次第に疑問を感じるようになりました。その後『野球人の錯覚』という本の中で、“ヒットと四球で点の入りやすさに違いはない”ことが実際のデータによって示されているのを読み、自分の疑問が解消されるとともに、自分もこんな研究をしてみたい!と強く思うようになりました。

『野球人の錯覚』ではあくまで1年間のプロ野球データのみを対象としていて、分析もそれほど細かくは行われていませんでした。そこで、過去10年分の甲子園のデータを対象とした詳細な分析を通じて、この説が本当に正しいのかを改めて検証しようと思ったのが、研究を行ったきっかけです。」

研究結果

ノーアウトからの四死球・エラーは本当に“流れ’'を悪くするのか?
一夏の甲子園 10年分のデー タを用いた検証一
 

【問題と目的】

野球界でよく言われる通説:ノーアウトからの四球は失点につながりやすい。

 ↓

“流れ’'を悪くするから
 
本当にそうなのか? そもそも流れなんてあるのか?
 
◎2005年のプロ野球デー タを用いて検証
・ヒットと四球で失点平均、失点率に違いなし
・エラーはヒットよりも失点平均・失点率が高い
 
ただし、
・攻撃チーム、守備チームごとの違い(ランダム効果)が考慮されていない
・得点の分布に正規分布を仮定している
・プロ野球はチーム数が少ない&選手が概ね固定されている(一般化可能性の限界)
 
 ↓
 
過去10年分の夏の甲子園のデータを用いて再検証
 

【方法】

データ:
2009年〜2018年の夏の甲子園における全ノーアウト1塁場面 (2676ケー ス)
・ヒット、四球、死球、エラーによる出塁の違いを検証(振り逃げ、打撃妨害は除外)
2665ケースが分析の対象(ヒット1697、エラー158、四球595、死球215)
 
収集した変数
(1)攻撃チーム(20XX年00代表)
(2)守備チーム(20XX年00代表)
(3)先攻or後攻
(4)イニング
(5)出塁タイプ
(6)得点
 

分析方法

・MCMC法によるベイズ推定(4つのチェインで各4000回のサンプリング、うち最初の1000回はバーンイン)
攻撃チーム、守備チームをランダム効果、それ以外の変数を固定効果として投入
得点は負の二項分布を仮定



「四球は失点につながりやすい」は実証されず!

・エラーはむしろ失点平均が低い
・死球はヒットと変わらない

考察

エラーで得点の期待値が低いのは打順に関係なく生じるため?
→ヒット、四死球は上位打線で出やすく、(エラーより)点につながりやすい

野球における‘‘流れ’'という存在そのものへの疑義
→さまざまな認知バイアスの産物にすぎない?

◎他の通説、俗説の検証の必要性
客観的なデータに基づく 作戦考案や選手指導ヘ


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