ほかの場面での「流れ」はどうなのか?
もちろん、「ほかの場面では流れの影響が見られるはずだ」という意見もあるでしょう。実は、先ほど紹介した『野球人の錯覚』では、ほかにもさまざまな角度から、「流れ」の存在の検証が行われています(全てを紹介することはできないので、ぜひ実際に本を読んでみてください)。たとえば、例にもあげたファインプレーについてです。「あのファインプレーが流れを引き寄せた」なんてことはよく言われますが、実際にファインプレーがあった次のイニングは、攻撃チームに得点が入りやすいのでしょうか?結果は表のとおり、ファインプレーがあったとしても、得点の確率・平均にほとんど違いは見られませんでした。ファインプレーはチームを盛り上げ、なんとなく得点が入りそうな雰囲気を作り出します。しかし、それはあくまで「メンタル上の流れ」であって、実際の得点への影響、つまり「結果上の流れ」の存在は確認されなかったということです(ちなみに、ファインプレーをされた相手側の得点にも影響は見られませんでした)。
*ファインプレー後の攻撃の得点確率と得点平均 (2005年プロ野球)
さらに、バント失敗、盗塁死、牽制死といった、攻撃ミスが「流れ」を悪くするかについても検証されています。チャンスをつぶしてしまったとき、「相手に流れがいってしまった」なんて言ったりしますが、実際のところはどうなのでしょうか?結果は表のとおりです。むしろ、攻撃ミスがあった後の方が、失点の確率・平均ともに低いという結果となってしまいました。
ほかにも、「ホームランは流れを良くする」「守備の時間が長くなると流れが悪くなる」「2アウトから出塁を許すと流れが悪くなる」といった通説が検証されていますが、いずれも実際のデータのもとでは支持されませんでした(ちなみにここでのホームランの影響は、先に指摘した誤りとは異なる形で、正しく検証されています)。