大切にしている球児たちの主観
天理では入学して寮生活にある程度慣れてきた5月頃に1年生を集めて、中村監督が身振り手振りでその項目ごとに座学を含めた指導をする。見聞きしたその講義や技術指導の内容を選手がノートに記入してそれを実践させ、ある程度理解すれば次のパーツ(項目)へ。中村監督が打撃に関して熱心に指導するのはこの時期だけで、以降は本人の感覚やレベルに応じて考えながら取り組ませている。もちろん節々でアドバイスは送るが、分からないことが出てくればそのノートを見直すなどして自分を顧みる。あまりに手取り足取り教えてしまうと、何でも鵜呑みにしがちな高校生の主観が失われてしまうからだ。
さらに中村監督は、選手の練習を見て必要な打球の種類を表に記して選手に見せる。ゴロ、ライナー、フライの3項目があり、割合を10として、例えばゴロは3、ライナーは5、フライは2、という具合だ。
「ホームランが打てない子にフライを打たせてもアウトが増えるだけだし、ホームランを打てる子にゴロを打てというのももったいない。
ただ、遠くに飛ばせる子は空振りが多い傾向があります。逆に空振りが少ない子はゴロが多い。力がついてくると元々ボールが当たる子だと、ゴロがライナーに変わって、ライナーがフライに変わります。今、在籍している子でもそういう可能性を秘めている子はいます。空振りの多い子はライナーを打つ意識を持つことできちんとインパクトできるようになるんです。フライを打たそうとするとボールの下から叩くようになるので、空振りが増える。ライナーは真ん中を叩くので当たりやすくなるんですよ」。
そういった中村監督独自の見解で、全員の割合の数値をはじき出し、作成された表はバッティングゲージに貼り付け、練習中に選手達がすぐに見られるようにしている。成長すればもちろん数字の見直しはするが、数字にすれば見る方も実に分かりやすい。実際にその表をもとに選手たちの打球への意識が変わり、打球の質が変わったという。「僕の独断と偏見なんですけれどね」と中村監督は苦笑するが、それぞれの選手が自分の持ち味を大事にしながら成長してほしいという狙いがある。
「僕はプロで一流になれなかったですが、プロでの生活は学ぶことの多い11年間でした。今、指導する側になって“自分がそうだったよな”と思いながら練習を見ています。自分がもし一流選手で今の立場にいるとしたら、どうなっているのか分からないくらいダメだったと思いますね」と中村監督。ただ、こういった生きた指導が、天理の各打者の意識を変えていっているのは間違いない。(取材・文・写真:沢井史)
*次回は天理高校の練習の様子をご紹介します。
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