「平成の王者」。そう称されるほど、高嶋仁前監督に率いられた智弁和歌山は平成の30年間、甲子園で圧倒的な成績を積み上げてきた。そんな名将から昨年夏にバトンを受けたのが同校OB、元プロ選手でもある中谷仁監督。選手として高嶋前監督のもとで全国制も経験している。そんな中谷監督に、監督としてのこの1年、そして監督として初めて迎える夏についてお話を伺った。
新しいことに果敢にチャレンジ
昨年の冬、練習が本格化する頃から、選手たちに練習メニューを選ばせることにした。自分はどうなりたいのか、どんな技術が欲しいのかを考えさせた。もちろん、練習の初めに全体練習はみっちりやる。「全体でやりたいことはこちらが考えたメニューをやった上で、アプローチできることはどんどんやりなさいと言いました」
選手たちからお願いされれば、バッティングピッチャーも買って出た。それぞれの能力が違うように、やりたい練習も違って当たり前だ。高嶋前監督が長らく積み上げてきたものを大事にしつつ「これはいいんじゃないか?」と思うことには果敢にチャレンジするようにしている。
高嶋前監督が在任時は詩吟やヨガなどユニークな行いもあったが、中谷監督が遂行しているのは読書と速読だ。本はジャンルを問わず、興味のある本ならどんどん読むことを勧めている。
「野球がうまくなりたいなら、野球以外のところから得るヒントもたくさんある。人生においても、野球の中にしか答えがないということもないですから。本を読んだつもりで分かったつもりになるのは困りますが、野球以外のことを通して“こんな考え方もあるのか”とか、自分の思考も変えていけると思うんです。無理に読んでも頭には入って来ないですから、あくまで興味のある本を自分のペースで読むことを勧めています。自分の本を子供らに貸していますが、いまだに返ってこないんですよ」と苦笑いを浮かべる。しかし、活字に触れることで選手の考え方に進化があることにも大きな期待を寄せているようだ。
野球という世界に特化せず、様々な分野から様々なアイデアを盛り込もうとしているが「これをやったからこういう成果があったという訳ではないし、どこまで効果があるのかは分からないです。でも色々なアプローチの手段を持っておけば、これからの野球人生には役立つはず」と先を見据える。その答えがいつ見つかるのかも分からない。それでも、野球という勝負の世界の中で常に挑戦している以上、多様な経験が少しでも彼らのためになればと願っている。
「自分たち大人は負けた時の責任を取るためにいるようなもの。今までやってきたことをかたくなに守ろうというのは違うし、僕らは結果にこだわって動かないといけないので、勝っていくためにやれることをやるだけ。その中で子供らの思いをもって接していけば何か通じるものは出てくるはずです」。
知恵やノウハウを踏まえ、何事にもチャレンジの姿勢を崩さず走り続ける中谷監督。名将の背中を見つめつつも、目指すは常勝軍団。そして今までとは違った歩みを進める“ニュー智弁和歌山”で挑む令和初の夏の戦いに注目だ。(取材・写真:沢井史)
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