「平成の王者」。そう称されるほど、高嶋仁前監督に率いられた智弁和歌山は平成の30年間、甲子園で圧倒的な成績を積み上げてきた。そんな名将から昨年夏にバトンを受けたのが同校OBであり元プロ選手でもある中谷仁監督。選手として高嶋前監督のもとで全国制も経験している。そんな中谷監督に、監督としてのこの1年、そして監督として初めて迎える夏についてお話を伺った。
高校野球にある“無駄”を省きたい
就任してからここまでは「あっという間でした。1週間なんて2日くらいで終わっているように感じます」と慌ただしい日々を送るも、今春着任した塩健一郎新部長と共にチーム作りに奔走中だ。初めてタクトを握った今春のセンバツではベスト8に進出。名将から継承した伝統を守りつつ、中谷監督の細やかな“改革”も話題になっている。のっけからその“改革”について尋ねると中谷監督は慎重な表情でこう切り出した。
「基本的には高嶋先生から教わってきた高校野球の戦い方がベースになっているので、大きく変えたことはありません。そもそも僕は勇気がないので…」。
智弁和歌山では、6月はいわゆる夏の大会に向けた強化練習期間だ。ひと昔前だと100m×100本を走る、トラック用の大きなタイヤを引くなど過酷な練習メニューにどっぷり漬かっていた。
「今の時代はそんなことをすれば問題視されるので、変えざるを得ないところがあるのが正直なところです。アップの段階で100mを何本も走るのも、夏の炎天下で戦う時に生きる部分はあります。それが古いという考え方もありますけれど、同じ疲れるならバットを振ったりノックを受けたりした方がいいのかなとは思いますね。ただ、何のためにしんどい思いをしないといけないのかを考えると、やっぱり日本一になりたい。甲子園に行きたいからです。そのために我々は子供たちと360日間は戦っています」。
キツイ練習=ブラックだという見方は強まっているが、それを止めるとなると、精神的な部分はどう鍛えるべきかという疑問は湧く。ただ、やみくもに走るだけで、果たして選手のためになっているのかと言われると、さらに疑問は深まる。そのため中谷監督は、まずその練習が選手にどう生きるのかを重視している。
「僕が目指すのは効率のいい練習。高校野球にある“無駄”を省きたいとは思っています。授業後、与えられた時間をどう効率よく使って練習するかです。10人の子供がいれば身体的な特徴は10人とも違う訳ですし、全員が効率よくレベルアップさせるには、それぞれ何が課題かを考え、自主的に練習できるかですよね。意味のないやらされる練習をするなら、帰って休養しなさいとは言っています」。
中谷監督にはプロ3球団を渡り歩いてきた自負がある。多くの一流選手を目にした過去を振り返りつつ、智弁和歌山に何を残していけるか? そう考えていくうちに、たどり着いたのは選手たちの思考に任せられる練習環境を作ることだった。(取材・写真:沢井史)
後編に続きます。
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