カラダづくり

【第1回神奈川学童野球指導者セミナー】現場と医療の垣根を越えた新たな取り組み

2018.1.30

1月21日、横浜市内の慶応義塾大学日吉キャンパスで『第1回神奈川学童野球指導者セミナー』が行われた。慶應義塾高校の前監督である上田誠氏が音頭を取り、スポーツ整形外科医の山崎哲也氏、理学療法士の坂田淳氏、柔道整復師の吉田千城氏が各々の分野で起きているスポーツ障害の現状について講演。その他に元横浜DeNAベイスターズの三浦大輔氏、さらに横浜高校の前監督である渡辺元智氏も参加し、集まった約500人の野球指導者を前に『少年期のスポーツ障害を予防する』ことについて意見を交わした。

野球人口の減少=スポーツ障害の増加の現実

セミナー発足の根源には、野球人口の増減とスポーツ障害の増加の相関関係がある。神奈川県では数年前まで2000あった少年野球チーム数が800に激減。学童の世界では深刻な野球離れが起きており、危機に直面している。だが、スポンサーが付く大会は増加傾向にある。選手は減るが大会は増える。そうなると、どうしてもプレーをする選手の身体にしわ寄せがきてしまう。投手は投球過多が原因のケガに悩まされ、野球を断念する例も少なくないという。そこで、指導者にも医学的知識をつけてもらい、医療サイドにも現場の声を届ける本会が発足された。

野球肘、野球肩は早期検診が鍵となる


スポーツ整形外科医の山崎哲也氏
まず、山崎氏が『学童野球に診られる肩・肘についてのスポーツ障害』を説明。いわゆる"野球肩・野球肘"と呼ばれる事例をレントゲン写真で見せ、それぞれの特徴を紹介していく。多くの指導者・保護者が間違った解釈をしている『成長期の子どもは大人の小型ではない』という点を強調していた。骨自体が柔らかく、骨を伸ばすところである骨端線(骨の端にある軟骨が骨にかわってゆく境目の部分)が子どもの身体には存在する。柔らかく繊細な骨端線にストレスがかかると離れたり、部分的に剥がれたりすることがあり、それが野球をする子どものスポーツ障害に多い。成長期の子どもであれば、初期段階のうちに適切な治療を行えば自然治癒が可能となるが、痛みを感じにくいため病院に赴くことが少ない。横浜市では現在、山崎氏が先頭に立ち『野球肘検診』を行い、早期発見に努めている。

山崎氏の講演の後に、氏とも親交の深い渡辺氏が壇上に上がった。指導界のレジェンドは会場から沸き起こる大きな拍手を浴びつつ、指導現場における迅速な対応について述べた。過去には筒香嘉智選手(横浜DeNAベイスターズ)を筆頭に多くの優秀な人材を山崎氏に診てもらい、ケガの事前対策に務めたという。選手の技術が高いと、どうしても将来を見据え過激なトレーニングを勧めがちな指導現場。だが、ケガを理由に野球から離れてしまっては元も子もない。指導者にはそういった子どもたちの未来を考える思考も必要だと語った。
 

予防への理解を深めることも大切


柔道整復師の吉田千城氏

次に桐光学園で選手としてプレーをした経験を持つ吉田氏が『ストレッチングの重要性』について講演。ストレッチングの目的は大きく分けて二つ。肉体の可動性の維持・向上と、怪我・スポーツ障害の予防である。そこで、肩・肘・股関節に効くさまざまなストレッチを会場に集まった人と共に実践。身体で覚える・体感することで、指導の現場に役立つ知識を植え付けていった。さらに、ウォーミングアップやクーリングダウンの重要性に話が広がり、外気温や疲労感を考慮し約15〜45分の時間を練習前後に設けることの大切さを説いた。



理学療法士の坂田淳氏

続いて『故障から復帰のためのリハビリプログラム』を坂田氏が講演。身体に負担のかかりやすい間違った投球フォーム(手投げ・肘下がり)が引き起こす障害の事例を紹介し、正しい投球フォームの指導を促した。また、テレビゲームなど長時間を行うと自然と姿勢が猫背になってしまい、怪我の確率も高くなる旨を説明。故障に悩む選手を多く見てきた坂田氏の「丈夫になれば上手になる」というキーワードが非常に印象に残った。



元横浜DeNAベイスターズの三浦大輔氏

午後の講演では、プロ野球選手の代表として三浦氏が幼少期からプロになるまでの野球体験を語った。三浦氏は「(スポーツ障害は)予防をすれば必ず減る。プロアマ関係なく、学童野球からプロまで指導者が勉強することが大切。こういう場は必要だと思う」と今後の継続的な開催を望んだ。

最後には三浦氏を含めた講師陣が、来場者からの質疑応答を行った。球数制限の話題になるとそれぞれ事例を挙げ、具体的な数字を述べた。山崎氏は「選手によって違うが目安は1日50球」、坂田氏は「80球までに抑えるように」、三浦氏は「アメリカでは遠投やキャッチボールも1日の球数に入れてケアをしている。日本もある程度制限をしないといけないと思う」と持論を展開した。

指導者と医療サイドの意見交換の場として初めて行われた今回の取り組み。会場に集まった学童野球に携わる約500人は熱心に耳を傾けていた。野球はスポーツ障害が多いということから、子どもに野球を勧めない保護者も昨今は多い。しっかりとした予防・対策への知識を現場サイドが持つことで、安全かつ安心して野球を楽しめる場を作ることが急務だ。プロとアマ、現場と医療の垣根を越えた取り組みが、野球界の未来を変える大きな一歩となることを心から願いたい。(取材・撮影:児島由亮)



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