カラダづくり

「スポーツ障害は痛いと思ってからでは遅い」山崎哲也(横浜DeNAチームドクター)

2018.1.30

1月21日に慶応義塾大学日吉キャンパスで行われた『第1回神奈川学童野球指導者セミナー』。そこで主に野球肘・野球肩について講演を行った横浜DeNAベイスターズ・チームドクターであり、整形外科医の山崎哲也氏に現在の学童野球におけるさまざまなスポーツ障害について話を聞いた。

過度な練習や、過密な試合日程などが障害を引き起こす

――学童野球で多いスポーツ障害とは具体的にどういったものでしょうか?

「一番は野球肘といわれるものです。部分的には肘の内側の障害で俗に『リトルリーグ肘』と呼ばれるスポーツ障害ですね。医学的には『内側上顆障害』と言います。投球動作の中で肘の内側が引っ張られ、障害を起こしてしまうことです。これは選手が10人いれば1人〜3人は起きていると考えていいでしょう。さらに、成長期特有のオスグッド病や、捻挫などの下半身の障害も多いですね」


――野球肘は肘の内側だけではなく、外側でも起きるものでしょうか?

「そうです。外側の野球肘は手術をしないと治らないケースに進展してしまう恐れがあるので要注意です。割合としては100人いれば1〜3人でしょうか。厄介なのは初期の段階では痛みがないこと。ただ、初期に見つけることができれば自然治癒という選択が可能となるのですが、どうしても痛みが感じにくいので、発見することが難しいというのが現状です」


――早期発見を目的に山崎先生を始め、医療関係者が検診活動を行っていると聞きました。

「横浜市18区を5ブロックに分割し、外側の野球肘検診を12月〜1月の休日に行っています。超音波でのチェック(エコー診断)で容易に発見できるんですよ。ボランティア活動のような形ですが、会場を借りる費用などがどうしても必要なので、小学生の高学年に限定し1回500円。ただ、発見をしても、完治するまでには1年程度かかります」


――選手にとって治癒中はプレーをできないもどかしさが生じますね。

「そこは、医者と指導者の協力が必要だと思います。診断し終わった後も、歯がゆさからか腑に落ちないといった表情をする選手も多いです。治癒中は精神面でのサポートも必要となるでしょう」


――障害が起きてしまう一番の原因はなんでしょう?

「やはりオーバーユーズだと思います。過度な練習や、過密な試合日程などが障害を起こしてしまう一番の原因ですね。他のスポーツと比べても、野球は障害が起きる確率が高いと思います」


――学童野球の現場においてスポーツ障害への理解は進んでいるのでしょうか?

「我々は医療サイドとして障害を起こす前の"予防"が一般的な考えにあるのですが、実際の指導現場ではこういった考えが浸透しているとはなかなか言いづらいですね。一日に100球投げたり、大会では連投を強いるなど、ハードなスケジュールを実行している指導者が多いです」


――では、指導者はスポーツ障害を防ぐために、日ごろどのようにしていけばいいのでしょうか?

「指導者が身体の知識を身につけ、子どもたちの身体をチェックする習慣をつけることが大事だと思います。もし、1〜2日安静にしても痛みが引かない状況であれば、医療機関で適切な診断を受けてください」


――具体的に、子どもの身体のどこをチェックすればいいのでしょう?

「背中にある肩甲骨を見て、左右差がないかチェックしましょう。また、肘がちゃんと曲げられるか『肘伸展テスト』、インナーマッスルが低下していないか『肘押しテスト』を定期的にしてあげてください。あとは、姿勢ですね。現代の子どもはゲームを長い時間する習慣がついてしまっているので、自然と猫背になっている場合があります。身体のバランスがおかしくなっていないか、大人がしっかり観察することがなにより大切で」


――最後に、スポーツ障害を防ぐために指導者、または保護者へ伝えたいことはありますか?

「野球人口が減少している中、大人が子どもたちをどう助けてあげられるかが鍵となります。スポーツ障害は予防が第一。痛いと思ってからでは遅いです。私たち医療サイドも今回のセミナーで紹介したような活動を、多くの指導者・保護者の方々に理解してもらえるよう努力していきたいと思います」

山崎哲也氏プロフィール

横浜南共済病院スポーツ整形外科部長。横浜DeNAベイスターズのチームドクター、日本体育協会公認スポーツドクターを務め、プロ・アマの競技者から厚い信頼を得ている。さらに、子どもたちの「野球肘」予防にも注力しており、地域の団体や医師らと連携し、検診活動の普及に努めている。



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