企画

【脱・流れ論】野球の「流れ」を再考する(3)

2020.4.20

よくある反論【2】「流れは数値化できるものではない」

打球の飛距離や球速は、その数値を正確に測定することができます。一方で、「流れ」を数値化するというと、どこか違和感を覚える人は多いでしょう。「今はチームに4の流れが来ている」「相手に3の流れを渡してしまった」なんてことは、普通は言いません。

それでは、「流れ」を数値化して考えられないかというと、そんなことはありません。もし「試合中に起こる不思議なチカラ」と定義したら、数値化はとても困難です。一方で、「試合の状況や展開によって、その後の得点や失点に影響が出ること」と定義すれば、前回の記事のように問題なく数値化できます。つまり、「流れ」そのものを数値化することは難しくても、「流れ」によって起こることについては、数値化できるということですね。

もちろん、「結果に表れない流れもある」という意見もあると思います。ただ、実際の結果に影響がないのであれば、それを問題にしなくても良いという考え方もできます。バントを初球で決める場合と、2・3球目で決める場合、たしかに初球で決めた方が気持ち良いですが、もしその後のプレーや得点に影響がないのであれば、あまり気にする必要はありませんね。まさに「メンタル上の流れ」と「結果上の流れ」の違いです。
いろいろな「流れ」の考え方があると思いますが、定義をしっかりすれば、問題なく数値化して考えることができます。一応この記事では、得点や失点など、試合の勝敗にかかわるものを使って数値化するのが良いと考えています(「結果上の流れ」です)。
 

よくある反論【3】「〇〇選手や△△監督は流れが存在すると言っている」

実のところ、これが最もよくある反論かもしれません。たしかに、アマチュアの野球好きが何を言おうと、一流の選手・監督が「流れは存在する」と言えば、そっちが正しいと感じるのが普通です。

それでは、一流の選手・監督の考えがいつも正しいかと言えば、そういうわけでないでしょう。たとえば、かつての名投手は口々に「投手はとにかく走り込め」と言っていました。しかし、投手に必要なスタミナや筋力を得る上で、走り込みは効率が悪く、さらにウェイトトレーニングの効果を減らしてしまうなんてことも、最近ではわかっています(詳しくはBaseball Geeksの記事、「野球選手に走り込みはもう古い?投手にとって必要なスタミナとは」をご覧ください)。
また、「四球はヒットよりも点につながりやすい」と元プロ野球監督が明言していたものの、実際のデータにはその傾向が見られないのは、前回の記事で示した通りです。

このように、たとえ一流の人たちであっても、人間の主観や直感は、いつもアテになるわけではありません。だからこそ、主観や直感が入り込まない、客観的なデータが必要になるわけです。カゼをひいたときに安心して薬を飲めるのは、その効果や安全性が、客観的なデータで確認されているためです。「あの〇〇医師が良い薬だと言っている」と主張しても、誰も相手にしてくれません。セイバーメトリクスがこれほど注目されているのも、誰かの主観や直感に頼らず、客観的なデータを使うことで効果をあげているからではないでしょうか。

一流の選手・監督の意見はもちろん参考にすべきですが、それだけで何かを「正しい」「間違っている」と決めつけてしまうのは、あまり望ましくないでしょう。


PICK UP!

新着情報