今夏、埼玉県勢として史上初の甲子園優勝を成し遂げた花咲徳栄。その花咲徳栄と県大会で夏・秋と二季連続で準決勝を戦ったのが山村学園だ。全国を制した王者の背中を一番近くで見ていたナインは今、来季の戦いに備え実り多き時間を過ごしている。秋風の肌寒いグラウンドに取材をした。
創部10年目で見えた甲子園への切符
山村学園は2008年度から男女共学に伴い野球部が創部された。埼玉県では西部地区に位置しており、先日行われた秋季関東大会に出場した市立川越を始め、聖望学園や川越東など県でも力のある高校が集中しているブロックに属している。そんな激戦区で力をつけ、今では二季連続県大会ベスト4になった山村学園の存在はまさに飛ぶ鳥を落とす勢いともいえる。
2010年から指揮を執る岡野泰崇監督は、二大会連続で敗れた花咲徳栄との試合をこう振り返る。「夏は正直上手く行き過ぎた部分がありました。1年生左腕の和田朋也がグッと伸びて結果を残してくれたのが大きかったですね。ですが、やはり今夏の花咲徳栄さんは力が抜けていましたし、当然の敗戦だったのかもしれません。しかし、秋は少し違いました。本気で関東大会を目指そうとしていたので、互角に戦える自信はあったのですが、試合では課題の二番手投手の差が出てしまった。和田の次に投げられる投手がいれば…そう強く思いましたね」。
関東大会の切符を逃した悔しさと、中盤まで互角に戦いあえた自信が交差した表情で岡野監督は語った。だが、創部わずか10年にして全国大会常連チームと準決勝で戦っている現状は周囲から見れば驚きだ。それを裏付けるかのようにグラウンドの選手たちの肉体は、強豪校とまるでそん色がないほど出来上がっている。聞くと、某野球具メーカーが全国で実地しているナインの筋肉量を測定するテストで、なんと全国2位に輝いたという。
「これは私の考えですが、体が大きい子なら構わないが、小さい子がいくら綺麗なスイングをしても筋肉量がなければボールは飛びません。ですので、部の方針としてまず体重や筋肉量を増やすことを掲げています。ベンチプレスやスクワットなどウエイトトレーニングの数値の合計が1トンを超えれば超高校級と言われています。その数値が昔は部に1人いるかいないかだったのですが、今では10〜15人出るようになりましたね。肉体に関しては甲子園に出場するチームにもけっして負けていません」。
効率性を重視したスピード感あふれるノック
山村学園は対外試合禁止期間の冬を“ウィンターリーグ”と呼び、週末に必ずチーム内で紅白戦を行っている。現在64人の部員を4チームに分け、グラウンドで試合をするチームと、トレーニングをするチームの2班に分け、ローテーションで回して効率よく鍛えている。練習のための練習ではなく、週末の試合で結果や課題を克服するため平日は実戦形式の練習に打ち込んでいる。
ノックは非常に実戦的で効率性が良く、オリジナル要素が強い。一般的な内野ノックは、サード→ショート→セカンド→ファーストというように打つ順番が決められているが、山村学園は二人のノッカーがランダムにテンポ良く打っていく。選手たちはボールがいつ飛んでくるかわからない状況になるため、常にノッカーが打つ一球に集中し、スタートを切っている。
外野ノックも同じくランダムだ。レフト→二塁、センター→三塁、ライト→本塁とポジションごとに予め送球するところを決め、中継プレーに入る二遊間の選手は打球を確認しては目まぐるしくグラウンドを駆け回っていた。
「効率良く、スピード感のある練習をやることで選手たちの集中力を鍛えることができます。一歩目を切ることができるようになりますし、常にボールから目を離さなくなります。なるべく実戦に近い状況で短い時間で数多くノックを受けることができます。気を抜くと危険ですので、ノックを打つこちらも大変ですけどね。(笑)」
このような実戦形式の練習の中で選手個々が週末の試合で活躍できるよう、高い意識を持ち、競争し合いながら着々と力を付けているのだ。
(取材・文・撮影:児島由亮)