甲子園を制した花咲徳栄が王者として君臨する埼玉県。その中で夏、秋と二季連続ベスト4とコンスタントに結果を残している山村学園。前篇で紹介した効率性を重視したノックに続き、後篇では山村学園が一年を通して行っているトレーニング、そして岡野監督流のチーム作りや今後の目標について話を聞いてみた。
加圧ベルトを巻いて肉体を鍛え抜く
部員全員が同じメニューをこなす山村学園。部員をAチームとBチームの2班に分け、Aチームがグラウンドで練習している間、Bチームはウエイトなどのトレーニングを季節問わずローテーションで行う。ウエイトトレーニングと試合を一年中行うことで、野球に必要な体力や筋力、そして実戦的な能力を伸ばしている。
トレーニングでは加圧ベルトを着用。低負荷・短時間・短期間の三拍子揃うこのアイテムは岡野監督が重視する効率性にピタリと当てはまる。このベルトを着用しつつ、グリップが太く重さが約1.2kg、長さが90cmあるバットを使いティーバッティングをする。
ティーバッティングは2種類。スクワットティー(10球×5回が1セット)と、連続ティー(15球×5回が1セット)を4セットずつ打ち込む。
そして、ティーバッティングの合間に、ハンマー叩き・ジャンプスクワット・腕立ての3種類のうちどれか一つを行う。つまり、ティーバッティングを10球打ち終わった後、すぐハンマー叩きや腕立てをするということだ。
そして下半身のトレーニングの一環として、ナインが声を出して行う踏み出し昇降がある。腸腰筋や心肺機能を高めるこのトレーニングを3分×3セット行う。
2年生の山田暖人くんは「普通の階段より段差あるのでめちゃめちゃ辛いです。やり始めてから足がかなり太くなり、走力も上がった気がします」と笑顔で話してくれた。この他にもウエイトトレーニングや綱のぼりなど、さまざまなメニューで強靭な肉体を作っている。
“大人のチーム”で夢を掴み取る
岡野監督はチーム作りにおいて“大人のチーム”を目指しているという。取材当日も岡野監督から練習の指示があった後、選手たちは状況を話し合い、自主的に動いていた。
「大学生や社会人チームのような選手たちが自主的に考えて動けるチームを作りたいですね。だからといって全部を選手たちに任せてしまうのではなく、外枠は私が作ってあげて、内側は選手たちが決める。メニューを決めるのは私だが、例えばシートバッティングであればランナーの状況やケースを決めるのは選手たち自身。指導者になりたての頃は私の知識を全部教えようとしましたが、肝心の聞く方の選手がその情報を欲していなければ意味がないと気づいたんです。それに、一から十まで教えると考えることができない選手になってしまいます。試合でもベンチから指示する声も通りづらいですし、状況を考えてプレーするのは選手自身ですからね」。
選手たちの自主性を伸ばし、グラウンドの声出しにしても、必要な言葉だけ声に出させる。課題であった二番手投手の擁立も、秋の大会後に力をつけてきた選手が4、5人いると岡野監督は自信を覗かす。そして最後に、究極ともいえる目標を語ってくれた。
「当然、甲子園に行く目標はありますし、社会人やプロの世界で活躍する選手を育てたいという思いもあります。さらに、このグラウンドで学んだことや培ったことを伝えられる指導者に育って欲しいです。あと、もう一つ…野球部から東大生を輩出したいと思っています。ある意味、野球と勉強の両立の頂点だと思うんですよ。野球も100%、勉強も100%できる選手になることができれば最高ですから」。
来夏は、記念大会ということもあり、埼玉県は2チーム出場できる。山村学園が位置する西部地区と、浦和学院や埼玉栄といった強豪校が属する南部地区が一つのブロックとなり争うことになる。甲子園で優勝するチームと戦い培った経験と、厳しい練習で深めた自信。創部10年目にして聖地への切符は手の届くところまで来ているに違いない。
(取材・撮影:児島由亮)