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【白岡高校】2年前のリベンジに燃える埼玉公立の雄

2017.4.27
ポイント制でメンバーを決めている埼玉公立の雄・白岡高校野球部

一昨年の夏の埼玉大会。ノーシードの公立高が埼玉栄、浦和学院といった強豪私学との接戦を制し、決勝戦の舞台に立った。連日の勝利をマスコミは「ミラクル」と評し、夏を大いに盛り上げた白岡高校。上尾高校を率いた2008年にも決勝の舞台に立った経験を持つ鳥居俊秀監督の下、今夏も虎視眈々とジャイアントキリングを狙うグラウンドに潜入した。


◆目 次◆

快進撃の要因は勝ちたいという思い

毎年作り上げるのは「攻撃型のチーム」

ポイント制でレギュラー選出

快進撃の要因は勝ちたいという思い

冬の寒さがようやくひと段落し、暖かい日差しが差し込むグラウンドには、60人を超える野球部の選手たちが汗を流していた。部員の半数を占めるのは2年生。彼らの多くが一昨年の夏の快進撃に魅せられ野球部に入部した。まず、ノーシードから決勝戦まで進んだ一昨年のことについて鳥居監督に振り返ってもらった。

「多くの方に驚かれるのですが、決してあの代は力がなかったわけではないんですよ。新チームが発足し、秋も春もベスト8は狙えるチームでした。ただ、大会へのもって行き方を間違えてしまい結果がついてこなかった。あの代の選手たちは白岡が初めて夏の大会のシードを獲得した時に入部した選手でしたので、元々持っているポテンシャルは高かったんです。その中で、決勝戦まで勝ち上がれた要因を一つ挙げるとするならば、選手たちが『勝ちたい』と強く思ったからでしょう。春の大会で初戦負けし、5月の中旬くらいまでは私が厳しく言って、追い込んでいた部分がありました。だけど、夏を目前に自分たちが変わらないとダメだと思い始め、率先して動きだし、部員同士で注意をし合えるようになりましたね。練習試合でも大差で負けていた状況を終盤でひっくり返すこともできるよう精神面が成長しましたね」。

選手たちに練習の指示を出す鳥居俊秀監督
練習中に選手たちに指示を出す鳥居俊秀監督

鳥居監督は毎年夏の大会を照準にチーム作りを行う。その中で選手を鍛え、個々の能力は伸ばしていくが、あくまでプレーするのは選手であり、伸びるために努力しなければいけないのは選手自身。まして、采配で勝てるのはせいぜい1、2試合だという。毎試合博打を狙って勝てるほど野球は甘くはないのだ。選手たちの力を信用し、確率の高いプレーを選択するのが監督の主な役目。しかし、選手が監督の采配ミスをカバーし、監督の計算を飛び越えてプレーすることができれば県上位、そして甲子園出場も狙えるようになるという。

「あの代は新人戦の初戦で花咲徳栄さんと試合をし、内野安打1本に抑えられコールド負けをしました。だけど、そこから選手たちは心も身体も成長し、最後の決勝戦でまた花咲徳栄さんと戦うところまでいきました。結果は5-2で負けてしまいましたが、12本のヒットを打ちました。基本的にベスト8まで進めれば、あとは力の差はそこまでないと思います。私を越えて、彼らは最後まで伸び伸びとプレーしてくれていましたね」。

毎年作り上げるのは「攻撃型のチーム」

近年は私学が力を伸ばし、甲子園への切符を掴み取っている年が続く埼玉。白岡も部員数はけっして少なくはないが、能力の高い選手を毎年集められるかといえば難しい。

「上尾でも白岡でも決勝までには進めましたが、最後には私学の前で力尽きてしまいました。高校野球は金属バットなので、いくら良い投手でもゼロに抑えることは難しいでしょう。だからこそ、送球の正確さや、球際の強さなど守りの面で私学に勝てないケースが多い。これは入部の段階、つまりスタートの時点で負けてしまっていることがあるので仕方のないことだと思っています。なので、私は毎年攻撃型のチームを作ることに重きを置いているんです」。

実戦形式でのバッティングの様子
毎年作り上げるのは「攻撃型のチーム」

勝てない部分を補うよりも、勝てる部分を強くする。一昨年の夏に四番でショートを担った矢部選手は元々は捕手であった。バッティングをより伸ばすために、精神面で重圧のかかる捕手のポジションからショートにコンバートしたという。鳥居監督は投手陣に対し、ショートに打たせてエラーをしたら投手側の責任にしていた時もあるという。矢部選手は捕手の重圧から逃れ、大会ではヒットを量産した。

「決勝戦ではエラーをしてしまいましたが、あの浦和学院さんに勝った準決勝ではショートに一回も打球が飛んでこなかったんですよ。攻撃面では大事な場面ではタイムリーを2本打ってくれましたね。野球では一回も守備でボールを触らない時もあるけど、打順は必ず回ってきますから。公立校ですので毎年優秀な選手が9人揃えられるわけではありません。ある意味、こちらも覚悟を持って攻撃型のチームを毎年作っているんです」。

ポイント制でレギュラー選出

春の大会前ということもあり、取材当日は実戦形式の練習に時間を割いていた。だが、レギュラーメンバーについて聞くと、秋から9人も変わったと鳥居監督は言う。

「うちは毎年ポイント制でメンバーを決めています。例えばノーアウト一塁の段階で、バントを決めたらその選手にプラス4点を与える。でも、バントではなくヒッティングで1,2塁にできたらプラス6点。逆にバントをミスしてしまったらマイナス3点といった具合に、事細かなポイントを選手個々につけて、練習試合や紅白戦をしています。また普段の生活態度でもポイントを付けているので、グラウンド外でも選手たちはレギュラー争いをしているわけです」。

白岡高校野球部のモットーが書かれたホワイトボード
グラウンドないだけでなく普段の生活態度でもポイントが付けられる

ポイント評価表のシステムは、インターネットに掲載されていた論文を基にし、商業科の教師である鳥居監督が自ら作成している。パソコンにデータを入力し、明確な数字をだして選手たちは自分の現状のポイントを知る。そしてポイントを踏まえ、最後は選手間投票でベンチ入りメンバーが決められるのだ。

ポイントを選手自身で稼ぐために、うちはとにかく実践が多いです。紅白戦も含めたら年間200試合はやりますね。また、秋から春までは基本的にノーサイン。選手たちが自分で判断し、プレーをすることで選手の個性も出ますので、私は一人ひとりのプレースタイルを采配で活かすことができます。それに、野球はやっぱり試合が一番楽しいでしょう」。

選手のアピールの場は一年間365日休まずある。部内で認められた20人、彼らの飛躍する姿が今から楽しみである。

(取材・撮影:児島由亮)

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監督プロフィール

白岡高校野球部を率いる鳥居俊秀監督
白岡高校野球部を率いる鳥居俊秀監督

鳥居俊秀(とりいとしひで)
1975年9月13日、埼玉県川島町生まれ。上尾高校から青森大学へ進学。所沢商業では部長を務め、2005年に母校の上尾高校の監督に就任。08年夏の埼玉県大会準優勝。その後、12年から白岡高校を指揮している。



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