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【高松商業】伝統校が進化する、「自立」への指導術

2017.9.6

高松商業といえば、第1回センバツ大会優勝校にして、春夏4度の全国制覇を誇る伝統校。しかし、90年代以降は徐々に甲子園での雄姿も見られなくなっていった。そこへきて2015年秋の神宮大会優勝、そして翌春、20年ぶりの甲子園ではセンバツ準優勝。古豪復活となった原動力のひとつに、異色の指導者・長尾監督の手腕がある。伝統校の精神を引き継ぎつつ、最先端の高校野球に対応してきた「進化論」について伺った。


基礎となるのは高商伝統の「人間力」。そして「自律」「自立」へ

学校史上初となる神宮大会優勝に、20年ぶりの甲子園で見せた快進撃。古豪と呼ばれて久しい高松商業を見事に復活に導いたのは、今年就任4年目となる長尾健司監督だ。中学校の教員を21年間勤め、人事交流で高校へ赴任して丸2年でのセンバツ準優勝。いかに凄い練習を行っているのかと世間の注目が集まったが、長尾監督はあっさりとこれを否定した。「練習内容は今もあのときも、いたって普通でシンプルです。中学で指導をしていた頃は環境面の制約もあったのでいろいろと工夫をしていましたが、高校の方が基本的なことに時間をかけている気がします」。

「そのぶん…」と前置きしたうえで、最も時間をかけたことを次のように話してくれた。「ご存知の通り、高松商は伝統校です。特に大切にされてきたのは野球以前の『人間』としての部分です。挨拶をする、キビキビと動く、規則やマナーを守る。そういったことを、OBの方々はずっと積み重ねてこられました。昨年のメンバーも、初めはここができていなかったんです」。

どちらかというとヤンチャな生徒が多く、ときには問題行動も起きた。学校内外から“指導がなってない”と指摘されることもあったという。「これは今の生徒でも一緒なのですが、入学したばかりの頃は“相手の気持ちを考える”ということができません。自分本位な態度を取ったり、きちんと挨拶やお礼が言えなかったり。野球ができるという自負があるから、プライドが高いんでしょう。本当に素直じゃないですよ」

ただ、長尾監督は単に高松商の『伝統』を押し付けるだけというのを嫌った。グラウンドでプレーをするのは選手たちだということから、自分で考える力をつけてほしいと考えている。

「最終的には生徒が自立して、監督は何も言わずにいるのが理想です。でもいきなりは絶対に無理。だからまずは『他律』です。頭ごなしにならないようにしていますが、生徒に気づいてほしいことを繰り返し言います。これが浸透してくると少しずつ『自律』できる子が出てきます。そうなるとそこからは仲間同志で言い合えるようになってくる。言うためには相手の気持ちを考えなくてはいけませんし、自分のこともわからなくてはいけない。こうして『自立』する生徒が増えてくると、チームとしても自立します。昨年の子たちはそういった意味で頑張りましたね」。

接戦を1試合経験することが、10日間の練習に匹敵する

「特に変わった練習はしていない」と話していた長尾監督だが、一方で実戦(練習試合)については並々ならぬこだわりを持っている。「1試合終わると、何もしたくなくなる」というほどに神経を尖らせて試合に臨んでいるという。

「1球1球、常に脳をトレーニングしているように考えています。野球ではボールやアウトカウント、得点差やイニングが変わるごとに状況が変わる。すると守備側では配球や守備位置、攻撃側ではサインや走者のリードなどが変わります。でも、その変化に気づけない、対応できない選手がいる。私がボソッとつぶやくように『なんであんなに三遊間が広いんや』というと、ベンチの選手が指示をする…この繰り返しですね(笑)」。

そんな長尾監督が特に重視するのが“接戦”の戦い方だ。ガンガン打って勝っても得られるものは少ないが、1点を争う接戦の中には上記のような『気づき』がたくさん転がっている。
「先を読む、先を見る力というのは接戦の中でしか養えません。守備でも攻撃でも、緊張感の中で考えながら試合をして、それを練習では想定しながらやる。濃密な接戦というのは10日間の練習に匹敵するとさえ思っていますから」。

こうした戦い方に不可欠となるのが、選手たちの『自立』である、と長尾監督は話す。

「結局話は初めに戻ります。相手の気持ちを考えるっていうのは、試合中に相手の出方を考える、先を読むということにつながるわけです。いつまでも監督の指示を待ってたらスキを突かれます。絶対にボロが出ます。相手を出し抜くには、自らの気づきと知恵が必要なんです」。

特に変わったことをしていないという練習でも、とにかく自ら考えることを求めている。試合でできなかった、気づけなかったことを、次の実戦で繰り返さないように練習をしている。(取材:渋谷亮)

後篇「センバツ準優勝の原動力ともなった「ボール球を振らない」練習法」へ続く

監督プロフィール

長尾健司(ながお・けんじ)/1970年香川県生まれ。県立丸亀高校、順天堂大学を卒業。飯山中学校や香川大学教育学部付属坂出中学校など、中学校の軟式野球で実績を残し、人事交流で2014年度から高松商業へ赴任した。保健体育科教諭。

香川県立高松商業高校

●監督/長尾健司
●部長/三好明彦
●部員数/2年生25名、1年生24名
1909年創部。選抜26回、選手権19回出場。選抜、選手権共に2回の優勝を誇る。第1回の選抜大会優勝校であり、多数のプロ野球選手を輩出している。

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