企画

【瀬谷高校野球部監督・平野太一】グローバルスタンダードを知り、日本の野球との融合を考える(2日目、3日目)

2017.5.26

◆目 次◆

逸材だらけ!すそ野の広さに驚き、底の見えないドミニカ

狙いは“成長” アグレッシーボ気質を身に付ける

ミスに恐れず立ち向かい、ミスから学ぶ強さを求めたい

逸材だらけ!すそ野の広さに驚き、底の見えないドミニカ

プログラムの練習見学を終え、車で移動。

今まで走ってきた主要道路から外れ、細い道へ入っていく。道路は整備されておらず、辺りは森。ついに車では入っていけず、停車して徒歩移動。「こんなところに何しに来たのだろう」と少し不安。すると小さな小さな町(?)、何軒か家が見えてきた。人は住んでいるようだ。

さらに草木をかぎ分け、石、岩だらけの足場の悪い道を抜けるとそこには何と野球場があった。こんなところに球場が??と驚いた。マウンドと手作りのバックネットがあり、ベースがある。なので野球場と認識したが、走路には石がむき出し、もちろんボコボコなグラウンド、そしてバックネット裏はなんと崖!常識を逸する作りである。

草木をかぎ分け、突如現れた野球場
草木をかぎ分け、石、岩だらけの足場の悪い道を抜けるとそこに野球場が
ドミニカのマウンド
ちなみにこれがマウンド

そこには20代の3人がキャッチボールをし、小学生から中学生ぐらいの年齢の小さな子どもたちが5.6人それを見ていた。

その5.6人の中から中学生ぐらいの子どもが1人キャッチャーで、その20代の3人がピッチャーとしてピッチングを始めた。

今回案内をしてくれている阪長氏にピッチングを見てもらいたいようだ。日本行きのアピールにもなると考えているようにも見えた。

何となく、「ドミニカのこんな小さな町にも野球をする文化があるということを学べて良かったなぁ」などと軽く考えていたが...そんな軽い感覚をこの3人に覆される。

『ゴォォォー!ズバンッ!!!』

「え??」本当に驚いた。

1人目は右の技巧派。ストレートは目測だが140km/h辺り。コントロールも良く、動くボールを操っていた。

2人目は左の速球派。しなやかなフォームからキレの良いストレートとキレのある変化球。球速は先ほどの右投手よりも速い。

そして、最後の3人目は恵まれた体格から球速は150km/hに迫る、いや超えているのでは?と思わせる剛球!キャッチャー側から見てみたいと思い、移動したが、大きな身体、長い手足、しっかり腕を振ってくるボールに対して野球人生で初めて「打席に立つのが怖い」と感じた。それほどの迫力のあるボールであった。

3名とも無所属で、野球がやりたくて困っているとのこと。また驚異のストレートを投げる投手は長く野球からも離れているとのことであった。間違いなく日本にいればドラフト1位候補クラスではないだろうか。何なんだこの国は...。日本でのプロ注目選手も素晴らしいが、世界は本当に広いなぁと思いました。

また感動したのは、この3名とも自分の人生がかかっているにも関わらず、力みもなく柔らかく話す。媚びるような様子もまったく見受けられませんでした。やるだけのことをやって、あとはどうなるのかは神のみぞ知る、程度の感じです。諦めているのではありません。媚びても仕方がない、意味がないことがわかっているとのことでした。これもまた日本の高校生にも伝えたい姿だな、と思いました。例えば背番号欲しさに媚びて、いい格好をしても、本質が良くなければいつかは化けの皮が剥がれる、ということです。

狙いは“成長” アグレッシーボ気質を身に付ける

3日目。
この日はprogramの子どもたちよりさらに低い年齢の少年野球チームの見学へ。
相変わらず明るく元気なドミニカの子どもたち。私たちのことを「チーノ!チーノ!(ねぇ中国の人ー!)」と冗談??(アジア系の人を見るとこう呼ぶことが多いそう)を言いながら駆け寄ってきます(笑)。

レベルは低いが楽しそうに野球をするドミニカの子どもたち
ドミニカの少年野球はレベルは低いが楽しそうにプレーする子どもたちが印象的

ちなみにこの国にはイジメが存在しないそうです。太っている人には「太っている」と言います。メガネをかけている人には「おいメガネ!」のようなニュアンスで声をかけるそうです。日本ではこういう所からイジメに発展するところですが、ドミニカではそうはならない。なぜかというと全然相手に嫌な思いをさせようとか、太っていたりメガネをかけていることが恥ずかしいことなどとお互いが微塵も思ってないからだそうです。意地悪な概念がない。本当に気持ちの良い国です。

プレーはというと、日本の小学生のほうが絶対にうまい。ドミニカの少年野球はパスボールだらけ、エラーだらけ、四死球だらけ。えー?というレベル。まったく締まった試合にならない(苦笑)。だけどみんな楽しそう!日本との大きな違いがここにあります。

小学生から高校1年生ぐらいにかけての年代は確実に日本人のほうが上手いです。それは日本のほうが小さな頃からその年代ごとに勝つことを目的にしてきているので仕上がりが早い。一見良いことと思われがちですが、この後の20歳前後の選手たちやドミニカのプロ野球リーグ(ウィンターリーグ)を見て、ナルホドと納得することになります。

ドミニカの小学生や15.16歳までのprogramの選手たちは『上手くなること、成長すること』を目的にしています。初めから狙っているのは25歳以降から長いMLBでの活躍です。
ちなみに20歳ごろの選手たちから、スキルと体格が日本人とは格段に変わり、逆転しています。

無理な練習をしていない分、故障がない。

長時間練習をしていない分、身体は健康的に大きくなっている。

ナチュラルマッスルボディ!

スキルは基礎をじっくりやってきているので、柔らかな守備とインサイドアウトのスイングが完全にマスターしている走塁や連携プレー、変化球の対応などはここからで充分できるということです。

前日見た圧倒的なポテンシャルの選手たちがどうやって生まれてきているのかのルーツがここにある様な気がしました。

また思い切りのよいスイング、ミスを恐れない守備など、とにかくプレーがアグレッシーボ!(アグレッシブ)です。

これは小さな頃から『怒られてきていない』というところにあるそうです。「いいぞ!いいぞ!」「ナイスチャレンジだよ」「次頑張ればいいんだ」とアグレッシーボな言葉掛けをずっとされてきているのでとにかくミスを気にしない

ミスを恐れず積極的なドミニカの子どもたち
ミスを恐れず積極的なドミニカの子どもたち

この日の少年野球の試合でも、「僕に投げさせて!」「いや、今度は僕!」と超積極的。四球を連発しても気にしない。降板しても、また次すぐ投げさせろとマウンドに上がる。日本にはこんな光景なかなかないです。
よって勝ち負けで言えば日本人のほうが若い年代までは勝ちますが、そこからの伸びしろが断然ドミニカの選手のほうがあるようです。

ミスに恐れず立ち向かい、ミスから学ぶ強さを求めたい

この姿は高校野球の指導者として本当に考えさせられました。
“成長”を望んでいない指導者などいないと思います。そして“勝利”を目指すことから得るものもたくさんあるからこそ日本の野球は各カテゴリーで勝利を目指して指導がなされているのだと思います。

私は現役時代「ボールが飛んでくるな」と思っていた自分がいましたし、うちの選手に聞いても「そう思ったことあります」と言っていました。しかし、そんなプレッシャーを乗り越え、強くなっていく。私はそれが日本の高校野球の指導の良さだと考えています。

ですが、このドミニカの子どもたちのように、ミスを恐れず純粋に、積極的にプレーをする姿、どんどん自分からプレーさせてくれ!と前に出てくる姿を求めている自分もいます。

“勝利を目指し、プレッシャーに打ち勝つ強さ”と“ミスを恐れず、アグレッシブにプレーすること”の両立を目指したいものです。

日本は洗練されたミスの少ない社会。だからこそ発展しているとも思います。そんな社会に生きていく子どもたちだからこそ、ミスを恐れず立ち向かって、ミスから学べる子どもたちであってほしいと思います。(神奈川県立瀬谷高校野球部監督・平野太一)

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