企画

【瀬谷高校野球部監督・平野太一】グローバルスタンダードを知り、日本の野球との融合を考える(ドミニカ2日目:前篇)

2017.2.10

テーバッティングを行うドミニカの選手

◆目 次◆

ドミニカの野球育成システム

渡航前に感じたドミニカへの懐疑的な観点

ドミニカの規範意識〜MLBに繋がる規律教育〜

ドミニカの野球育成システムについて

ドミニカの育成システムについて説明します。ドミニカにはMLB30球団すべてのアカデミーがあります。『アカデミー』とは16歳以上の選手とMLBが契約し、育成するためのものです。ここからルーキー、1A、2A、3A、そしてメジャーと階段を上がっていきます。

そのアカデミーに入るため、要はMLBとの契約を結ぶために練習するカテゴリーが『プログラム』となります。プログラムはドミニカ各地に多く存在し、子どもたちはそのうちから選んで在籍します。基本的に年齢は日本の中学生ぐらいです。イメージとしては日本でいう、シニアやボーイズといった学校外のクラブチームと考えるとわかりやすいかと思います。

プログラムには監督(代表)の他に各種コーチ(打撃、投手、内野、外野)がおり、選手を指導します。このプログラムのコーチは学校の教員ではなく、コーチを職業としています。自分の育てたプログラムの子どもがMLBアカデミーと契約すると、その契約金のおよそ30%がコーチに入ってくるというシステムとなっており、それが収入となります。
よって、プログラムでの指導の目的は『勝つこと』ではなく『MLBのアカデミーと契約できる選手に育てること』となります。

渡航前に感じたドミニカへの懐疑的な観点

ドミニカ野球を日本で学び始めたときに、

日本の少年野球、中学野球、高校野球は各カテゴリーで勝ちを求めすぎている。そのことによって故障を誘発したり、じっくり基礎を固めることができずに、結果野球を断念したり、メジャーリーグで活躍できる選手が育たない』

という話を聞きました。

しかし、私としては『勝ちを目指すからこそ成長があり、日本の野球が教育的効果が高く、また日本野球界も発展を遂げてきた』と考えていたので、ドミニカのシステムを理解はしますが、なかなか納得できるものではありませんでした。

またドミニカは“コーチは子どもたちが契約を結ぶことで、そこから収入がある”というシステムになっていると聞きました。

つまり、“お金のために野球を教えて、勝つよりも上手く育てることがお金になる”からそのシステムが成り立っていると感じました。

日本はドラフトされる選手は基本的に高校野球、学校の教育下である部活動を経てプロへなっていきますが、もし教え子がプロと契約しても指導者にお金が入ってくることはありません。よって“日本の指導者はお金よりも教育的な側面、成果を大切にしている”という自負があり、ドミニカの野球指導に対しては少し懐疑的な思いがありました。

しかし、高校の現場で指導していて、変化する社会や子どもたちを目の前にして、このままでいいのかと考えることが増えてきました。

私が少し懐疑的に見ているこのドミニカの育成システムを実際に観に行くことで何か学ぶ、感じるものがあるのでは、と考えたのが今回の渡航の目的のひとつでもありました。

ドミニカの規範意識〜MLBに繋がる規律教育〜

サント・ドミンゴから2時間ほど西へ移動しプログラムの練習を見学させていただきました。9時から練習ということでしたが、9時ごろにノンビリとグラウンドに入ってくる選手たち。やはりラテンアメリカ特有のゆったりとした時間感覚、時間にはルーズといったところでしょうか。

監督、コーチを中心とした練習前のミーティングが始まりました。
そのときの内容に驚きました。

しっかり規律を守るんだ。メジャーリーガーになるためには何よりも規律が大切だ。時間を守ろう。また、しっかりとうまくなるんだという気持ちの準備をした上でグラウンドに入ってくること。」ということでした。

ドミニカは実際、交通マナーが悪い、時間を守らない、街やグラウンドにまでゴミが散乱、犯罪も多い、ということで秩序が守られていないと感じることが多いです。よってドミニカの教育として規律に対する指導がそれほどなされていると思っていなかった私にとっては驚きのミーティングでした。

ミーティングをしていた監督に話を聞くと、「規律は大切だよ。やはりアカデミーやマイナーに行くと厳しい世界が待っている。ルールを守らない、自分を律せない選手はすぐリリース(解雇)されてしまうし、成長しないんだ。規律はなかなか身に付くものではないけれど、伝え続けているんだ。」とのことでした。

また続けて、「その点、日本はアドバンテージがある。規律が国の文化として根付いている。これは本当に大きなアドバンテージだよ。」と伝えてくれました。

そのとき『日本人として誇らしい』と思えました。それと同時にやはり、日本の良き規範意識は失ってはいけない大切なものだと再確認させられました。日本でも最近、“モラルに反する行動”や“緩んできた規範意識”が多く話題になっています。今までの日本の社会と教育が作り上げてきた良き文化を継承しなければならないと、異国の地で再確認しました。

次回は具体的にプログラムでの練習方法などをご紹介できればと思っています。

【瀬谷高校野球部監督・平野太一】ドミニカで見つめ直した日本野球(ドミニカ1日目)


平野太一
1985.5.23(31歳)
大分県立別府鶴見丘高等学校 → 川崎医療福祉大学(中国地区大学野球連盟1部リーグ)
大学3年秋季1部リーグ戦にて首位打者(.471)、ベストナイン(三塁手)を獲得。
【監督歴】
神奈川県立津久井浜高等学校 → 神奈川県立瀬谷高等学校



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