カラダづくり

現役トレーナーが語る「勝者」から学ぶ食トレ

2017.4.26

試合を制する食トレについて語ってくれた現役トレーナー3名

全国の高校を巡る食トレトレーナー。高校生からは良きお兄さん、指導者からは良き相談相手、保護者からは良きアドバイザーとして多岐に活躍する3名のトレーナーに「試合期の食トレ」について詳しく話を聞いてみた。


バランスよく栄養を摂取することが大切

─今回は“試合に勝つための食トレ”をメインテーマに、3名のトレーナーの方々にお話を伺いたいと思います。まず試合期の食トレについて簡単に教えてください。

川崎 試合の1、2日前は消化の悪い油モノは控えることが鉄則です。食トレの基本は『炭水化物』。これがないと体内にエネルギーを蓄えられません。試合当日の朝も炭水化物は必要不可欠。肉などのたんぱく質を摂ってしまうと、試合中、消化にエネルギーを使ってしまうので極力避けます。また、試合中のエネルギー補給も重要。特に夏場は気温も高くエネルギー消費が激しい。だから水分補給は怠らず、試合途中はグラウンド整備の時間を利用し、バナナやゼリー類をとると良いでしょう。

川原 スタミナの源はやはり『ご飯』。各自定められたご飯量を守ることが重要ですね。夏はミネラルが不足してしまうので、おにぎりの具材を塩昆布や、海苔の佃煮に変えるのも効果的です。

─今回の選抜では静岡高校、中村高校が出場することが決まりました。結果を残した彼らの食トレはどのような特徴がありますか?

川原 中村は監督さんも選手も食トレに対し非常に熱心です。僕は担当を引き継いで日が浅いですが、ある選手は一冬で10キロも体重が増えました。ただ、もともと女子チームかっていうくらい線が細かったんですよ(笑)。

川崎 食トレ当初は40キロ台の選手がいたくらい。でも、食トレを始めてから数値がずっと右肩上がり。普通は上がっても、途中で停滞してしまうものなのですが。

川原 頑張ってはいますが、選抜に出場したチームの中では、平均体重は最下位でしょう。でも、県内の強豪校にコールド負けしていたチームがここ数年で力をつけ、自信をつけています。食トレに関しても手ごたえを感じているようなので、数値は一向に下がりませんね。

甲子園に出場する高校は食事の意識も高い

今福 静岡は伝統ある高校で、監督さんや部長さんもしっかりしていますし、自分は食事に関して注意事項や知識を与えるだけで、安心して見ていられます。強化食以外にも、コンディショニングのカプセルを普段から飲ませているので、さまざまな栄養素を選手たちは摂っている。だから、他校に比べると、身体つきは大きいですね。

川崎 静岡はチームの平均体重が身長─100キロに少し足りないくらいで、体脂肪も少なく優秀な数値を毎年出しています。食トレに対しての意識は全国トップクラスです。

─静岡はチームとしての結果以外にも昨年は鈴木選手、一昨年は堀内選手と2年連続でプロ野球選手を輩出していますね?

今福 鈴木くん、堀内くんをはじめ部内の食事に対する意識の高さが結果に表れましたね。体重が足りないなら、自分でおにぎりを作る子も多い。鈴木くんは個別での相談が多かったですね。一人ひとりが自分自身を見つめているので、個々の能力も伸びていきます。

川崎 鈴木くんは細いように見えて体重はしっかりある。ただ、僕は堀内くんの方が印象深かった。体重は80キロを超えるけど体脂肪は10パーセントくらい。凄い身体だなってデータを見て驚いた記憶があります。

─両校とも選抜での食トレに関し、どのような対策が必要でしょうか?

今福 抽選直後に、食事のタイムスケジュールについて話をする予定です。何試合目かによって食べるタイミングは変わるので。ただ、静岡は経験豊富なチームですし、選抜に照準を合わせるのではなく、夏の大会も見据えギリギリまで身体づくりに集中していいと思います。春にではなく、7月に100パーセントの力を出せる身体を作れるよう、パワーアップも兼ねた食事をさせますね。

※取材当日は選抜の抽選前

川原 甲子園常連校というのは大会前に近くのホテルを借り、交流のあるチームと練習試合をすることがあります。ただ、初出場の中村はそういったことは難しい。僕も現役時代選抜で経験したのですが、大会中はグラウンドを使える時間が短く、美味しい食事が提供される。普段の環境とは違い、2キロ太ってしまったんですよ。だから、試合時間を逆算し、こまめに体重を計測することを推奨しています。

─選抜では食トレパワーで頑張って欲しいですね。では、近年大会期間中に印象に残ったチームはありますか?

川崎 昨夏の水戸第一(茨城)の試合ですかね。その試合はちょうど観に行っていて、9回表まで負けていたのに逆転して勝ったんですよ。試合後に監督と話をすると、5回に思い切って強化食を飲ませたみたいです。試合前に「もしきつくなったら飲ませてみてください」とアドバイスをしていたので、効果が出たと聞いて嬉しかったですね。本来の目的とは少し変わりますが、夏場はエネルギー消費が激しいので、栄養素として飲むのもアリなのかなと。

今福 僕は食トレをやっているチーム同士が、甲子園の一回戦でぶつかった時は驚きましたね。僕の担当するチームが負けてしまい、すぐ勝ったスタッフに電話しましたよ(笑)。あと、2年前の静岡県大会。決勝戦で自分の担当校同士が当たったときは心苦しかった。どっちも頑張れって感じで、観るのが辛かったです。

川原 昨夏の兵庫県大会の西宮北の一回戦。西宮北はあまり実績がないチームですが、そんなチームが甲子園常連校に最後まで食い下がったんです。負けはしましたが、食トレで20キロ増えた選手もいて、食事の意識変化がグラウンドレベルでの結果に繋がった良い例でしたね。

甲子園は一生の思い出になるので、ぜひ経験して欲しい

─最後に三人の今後の目標を教えてください。

川崎 自分が担当している高校はまだ甲子園経験がなく、担当校である市川(千葉)はあと一歩のところで選抜を逃してしまった。だから、夏は担当校をぜひ甲子園に行かせてあげたいですね。他のスタッフが甲子園を決めて「ヨッシャー!」と言っているのを横目で見ると、羨ましいなと思ってしまうものです。

今福 僕は甲子園に出られる高校を増やすことです。あと、自分が公立校出身なので公立校にも頑張って欲しい。私立はチーム一丸となって本気で甲子園を目指す部分が羨ましいと思うのですが、やはり選手と自分の現役時代を重ねてしまう部分もあるので。練習時間が短いなか、勉強と野球をしっかりやって結果を残して欲しいですね。

川原 食トレをやっているチームの監督が、他チームに有益な情報を与え、食トレを通じて高校同士の繋がりができると良いですね。目指すは甲子園に出場する49の代表校が全て食トレをやっている高校にすること。食トレの大切さをもっと普及させて行きたいです。

担当トレーナーが語る食トレ実践校

全国トップクラスの肉体を誇る静岡高校

昨年は鈴木将平選手(現西武)、一昨年は堀内謙吾選手(現楽天)と2年連続でプロ野球選手を輩出している静岡。今福トレーナーは甲子園常連校をこう語る。「食事への意識がとにかく高い。鈴木くんは訪問指導のたびに個別で質問にくる真面目な選手。堀内くんは体脂肪の結果に一喜一憂する明るい性格だが、体重は高い基準でキープする。チームとして食事をしっかりとる習慣が定着しています。全国トップクラスの肉体と言っても過言ではありません」。

団結力の高さが食トレにも表れる中村高校

今春の選抜で21世紀枠として40年ぶり2回目の出場を果たす中村。2学年合わせて16名の選手たちは全員が地元出身・自宅通学。しかし、四国の並みいる強豪と互角に戦えるのは団結力の成果だと川原トレーナーは言う。「選手全員が純粋で、かつ探求心があるように感じています。中高一貫なので、少人数ですが仲が良いですし、一丸となって上を目指そうという意志が食トレにも表れていますね。最初はガリガリだった選手たちが、徐々にたくましくなってきています。自宅通学だからこそ、保護者の方々の協力が必要不可欠ですね」。月に一度行われる勉強会では保護者も参加し、食べる量やタイミングなどを学んでいるという。40年前は部員12名で準優勝という快挙を果たした。少数精鋭だからこそ生まれた団結力で、初の全国制覇を目指す。

*中村高校の食トレの様子

川崎督也トレーナー・管理栄養士
川崎督也トレーナー・管理栄養士)
1988年8月13日生まれ。福岡県出身。東福岡高校、長崎国際大学でバスケットボールを経験。管理栄養士の資格を持ち、選手を栄養面でもサポートする。
川原寛樹トレーナー^
川原寛樹トレーナー
1980年6月23日生まれ。峰山高校時代はエースとして甲子園を経験。その後立命館大学に進学。鍼灸師・柔道整体師の資格を取得し、選手を食事面以外からも支える。
今福哲也トレーナー
今福哲也トレーナー
1986年5月23日生まれ。山梨県出身。甲府第一、慶應義塾大学、明治安田生命でプレー経験を持つ。多くの担当校を抱え、選手からの信頼も厚い。


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