企画

【野球の観方を変える】現代野球に必要なピッチングを考える 〜前編〜

2014.10.23
「縦振り理論」をベースに、少年野球から高校野球まで幅広くチームサポート活動を行う榊原貴之が、野球の新たな観方を提案する。


現代野球はストレート以外に2種類以上の変化球が必要

 大阪桐蔭、日大三高、智弁和歌山などなど。名だたるこの強打のチームをいかに抑えるのか??それを具体的に描いていかないと甲子園で勝ち上がっていくことは難しいでしょう。まず考えるべき点は、「どれくらいのスコアで試合を進めていくのか?」です。第一回、第二回のコラムでも書きましたが少なくとも3点勝負は頭に入れておきましょう。なぜなら、甲子園に出場する強打が自慢の強豪校を3失点で抑えれば上出来ですよね。試合展開によっては5失点でもOKです。大事なのは「最少失点に抑えて、ビッグイニングをつくらないこと」。それでは、そのために必要なピッチングとは何かを考えていきたいと思います。

 現代野球における投手の傾向としては球種の多さには目を見張るものがあります。中学生でも2シームやフォークなどを使う時代ですからね。例えばプロ野球の先発完投型投手であれば、ストレート以外に3種類以上の変化球が必要だと言われています。高校野球でいうと甲子園で勝ち上がるためにはストレート以外に2種類以上の変化球がなければいけないと言われています。

 当然ながらストレートとスライダーの2種類だけで抑えるのは難しいですよね。いわゆる「スライダーピッチャー」と呼ばれる投手です。外角一辺倒の配球になりやすく、力任せで投げるタイプが多いのでコントロールも悪く、球数が多くなります。ストレートが140キロ以上のスーパーエースといわれる投手が意外と甲子園に出られないのはこれが大きな原因ですね。現代の高校野球ではストレートが速いだけでは勝ち星をあげることは難しいです。日本ハム・大谷翔平選手が典型ですね。もちろん彼の場合はプロになってからも成長し、良くなっています。


伊藤智仁から始まったスライダー全盛時代。変わる打者への指導法

 では、このスライダーという球種の歴史に触れましょう。これを世の中に広めたのは元ヤクルトスワローズ・伊藤智仁氏です。当時の監督だった野村克也氏、現役でその球を受けていた古田敦也氏が絶賛したほどのキレだったそうです。ファミスタでもあの高速スライダーは打てませんでしたね(笑)。もちろんこれまでなかった球種ではないんです。同じような変化球を投げている投手もいたはずですが「スライダー」という呼称が前面に出なかっただけです。元読売ジャイアンツ・槙原寛己氏もカットボールともいえるような“エグい”スライダーを投げていましたからね。

 さて、この伊藤智仁氏の出現により、猫も杓子もスライダーの時代がやってきました。高校野球にもその波はやってきました。これまでは変化球と言えば、ストレートと球速差のあるカーブが主流でした。そこへ球速の速いスライダーが登場したわけです。これにより打者に対する配球が大きく変えることになりました。打者は球速の速い変化球への対応に大変苦労しました。腰が砕けたような空振りを連発することになったわけです。わかっていても、そんな空振りを繰り返すのでバッテリーとしてはそこに投げ続ければいい、となってしまいます。実はここが落とし穴なのです。

 ちょっと視点を変えましょう。実はこのスライダーという変化球の台頭によってバッティングスタイルにも大きな影響を与えました。さすがに打者も黙っていません。技術革新というのは競争の中で生み出されます。電化製品などはより良いものを作るために企業が競い合います。打者と投手も同じ関係です。打者も対応するようになってきたわけです。物理的な要因としてはピッチングマシンの性能が上がり、球速のある変化球に対する練習機会が増えたことも一つです。あとはこのころから指導方法や打者の意識も変わってきました。「身体に近いところでインパクトする」「引きつけて腰を回す」といったような言葉を耳にすることが多くなってきました。これによって打者がスライダーに対応する知恵をつけたのです。それ以前に言われていた「インパクトは二等辺三角形」「前でさばく」というような言葉は昭和の古い指導だ、なんて言われることもあります。

 そして、このスライダー全盛時代によって打者、投手にそれぞれ弊害が出てしまったのも事実です。次回ももう少しスライダーの歴史を紐解きながら、現代野球に必要なピッチングについてお話していきましょう。


<著者プロフィール>

榊原貴之
昭和49年生まれ、神奈川県出身。”縦振り”という考え方を基に走攻守の技術を始めとして、チーム創りに関するアドバイスを全国の野球チームに行う。小中学生を対象とした野球教室や指導者講習会などの講師も担当。Facebook、Twitterにて野球観や人生観の“気づき”を毎日綴っています。

Twitter : @taka19740921
Facebook: facebook.com/takayuki.sakakibara

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